「…っ⁉︎」
 目が覚めると目の前に黒蓮がいた。雪月は物凄い勢いで飛び起きて布団から離れたが、黒蓮はまだ寝ているようだ。
(何で黒蓮様が? 確か昨夜は一緒に星を見て、それで…)
 その後の記憶が無い。そこは縁側ではなく、いつも雪月が寝ている部屋だが、なぜか黒蓮が同じ布団にいる。しばらく昨日のことを思い出そうとしたが思い出せず、雪月は頭を抱えていたが黒蓮は全然起きる様子がない。
 目を閉じていると睫毛の長さが一層際立ち、目元には薄く影を作っている。形の良い朱唇からは微かに寝息が漏れていて、色気さえ感じられた。
 雪月はいつの間にか考えるのをやめて、端整な顔を間近で見入っていると黒蓮が目を覚ました。
「ん、雪月。もう起きたのか。」
「おおお、おはようございます。」
「おはよう。」
 見とれているところでいきなり目を覚ましたので、雪月はまた物凄い勢いで黒蓮から距離をとった。
「あ、あの、なぜ黒蓮様がここに?」
「雪月が俺の袖を引っ張って「いかないで。」と言ったからだろう?」
「え⁉︎ そうなんですか⁉︎」
(私そんなこと言ってたの? 全然覚えてない…。)
 だが黒蓮がこんな嘘をつかないことも承知しているので、余計に恥ずかしい。
「お前がいつの間にか俺の膝の上で寝てしまっていたから、ここに運んだんだ。まぁ俺は雪月が寝たら自室に戻るはずだったんだが、いつの間にか俺も寝てしまっていた。」
「あ~なるほど、そうでしたか…ご迷惑をおかけしました。朝餉を用意してきます!」
 目を泳がせまくっていた雪月だが、流石に羞恥心で押しつぶされそうになり、その場から逃げるように厨へと向かった。
 その後の二人で食べた朝餉の味を、雪月は覚えていない。

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