白き月と黒き花は永久を知る

石蒜(せきさん)という生薬になる。今はまだ花が枯れて葉が生えてきたばかりだが、この葉が枯れ始めた頃に鱗茎を採って乾燥させる。それが石蒜だ。解毒や去痰作用があるが、毒性が強いから正直口にしない方が良い。外用としてなら鱗茎をすりおろして浮腫やあかぎれに用いることができる。」
「なるほど、そういうことができるのですね…」
 黒蓮が説明したことを忘れまいと、いつものように繰り返し声に出しながら彼岸花の葉を見ていると、ある疑問が浮かんだ。
「彼岸花って花と葉は同時に見れませんが…どうしてでしょうか?」
「それは俺もそういう花だとしか言いようがないが、花のある時期には葉はなく、葉のある時期には花が散ってしまうという特徴から、葉見(はみ)花見(はなみ)ずという名もある。遠く離れた地では相思華(そうしばな)といい、「想いを思う花」という意味だそうだ。」
 花と葉が同時に存在することはできない。それでも花は葉を想い、葉は花を想っている。悲恋を連想させる何とも悲しい意味に聞こえるが、真紅の花はその想いの強さを伝えているのかもしれない。
「育つ場所が違っても、皆感じるものは同じなのかもしれないですね。」
「そうだな。見た目も、そこに込められた意味も、皆美しい花だ。」
 人は彼岸花にあまり良い印象を持たないことが多いが、黒蓮はお気に入りのようで、庭が紅く彩られていくのを嬉しそうに眺めていた。
 しばらく二人で庭の手入れをしていると、黒蓮が思い出したように「あ。」と言って作業していた手を止めた。
「雪月、今宵はいつもより多く星が流れるそうだ。昨夜は一人で不安にさせてしまったし…その、一緒に見ないか?」
「…はい! 」
 黒蓮からの突然の提案に驚きつつも、その表情には笑顔が広がった。
「では何か温かい飲み物を用意しておきますね。」
 嬉々として用意する茶について考えている雪月を、黒蓮はどこかほっとしたように見守っていた。

 雪月が厨で茶を準備していると、湯浴みを終えた黒蓮が雪月に声を掛けた。
「良い香りがする。生姜か?」
「はい。今日採った生姜をすりおろしてお茶に加えたんです。」
 生の生姜は、散寒(さんかん)という体表の冷えを散らす効果がある。冷たい外気にさらされる時などにちょうど良いものだ。