そう言って笑った顔は無邪気なものではなく、どこか見守るような柔和な笑顔だった。
「そういえば、烏天狗さんからお礼の品を預かっていたんです。」
 叢雲はどこからか包みを取り出した。以前火傷をしていた烏天狗を手当てしたことがあった。そのお返しということだろう。
「お茶だそうです。なかなか手に入らないものらしいですよ。あとこれは僕からです。」
 もう一つの包みを開けると、そこには鬼胡桃(おにぐるみ)が入っていた。
「わあ、ありがとうございます。」
 人間である雪月が屋敷で暮らし始めてから、訪れる妖怪はお返しに食べ物をくれることが多い。そのおかげか、今では屋敷の庭でも採れない果実や、なかなか手に入らないような調味料まで揃っていた。どこで手に入れてくるのだろうと疑問に思うが、人形を完璧にとれる妖怪には案外簡単なことらしい。都では普通に人間と暮らし、働いて買ってくる者もいるほどだった。
「せっかくだから食べるか。胡桃はそのまま食べれるし、咳を鎮める効果もある。」
 黒蓮が胡桃を一つ手に取るのを見て、雪月は立ち上がった。胡桃は硬すぎてとても手の力だけでは割ることができない。
「では何か割れるものを…」
 バキッ。
「え?」
 雪月は思わず黒蓮を二度見した。普通に片手で胡桃をバキバキと割り始めたのである。
「やったぁ。いただきます。」
 叢雲は驚いた様子もなく、黒蓮が割った殻の中の実を食べ始める。
「なんだ。食べないのか?」
「い、いえ。いただきます。」
 雪月は動揺を隠し切れないまま、腰を下ろした。
「もしかして雪月さまは、黒蓮さまはとても力が強いことを知らなかったのですか?」
「はい…。」
 最早、力が強いとかの話ではない気もするが。
「すまない。また驚かせてしまったな。」
「いえ、大丈夫です。驚きますけどこういうことは初めてではありませんし。」
 黒蓮の人並み外れた行動を目にすることはよくあることだった。
「へぇ。他にはどんなことがあったのですか?」
「叢雲、お前はまた…」
「いいじゃないですか。気になりますし、僕はもっと雪月さまとお話ししたいです。」
「……。」
「えっと、そうですね…。」
 大きな目を輝かせながら見てくる叢雲に戸惑いつつも雪月は口を開いた。