雪月が薬房へと入るのを見送った叢雲は、徐に口を開いた。
「薬学は黒蓮さまが雪月さまにお教えになっているのですか?」
「ああ。だが雪月は自ら俺に教えてくれと頼んできた。ここで甘えるだけの生活ではなく、俺の役に立ちたいんだそうだ。」
ここに居ても良いと言われるだけでなく、ここに居て何かしたいと思っていた雪月の考えは黒蓮によく伝わっていた。
「素敵なお考えですね。」
黒蓮は「全くだ。」と言って顔をほころばせた。それを少し驚いた様子で見ていた叢雲のところへ、盆を持った雪月が戻ってくる。
「桂枝湯とゆり根茶を用意しました。」
ゆり根には、潤いをもたらす効果の他に咳を鎮める働きもあるのだ。そして桂枝湯には、桂皮、大棗、甘草、生姜、芍薬という生薬が入っている。頭痛、微熱など、風邪の初期に処方するものだ。
(葛根湯と迷ったけど…。汗をかいているみたいだから桂枝湯の方がいいはず。)
葛根湯も風邪の初期に処方し、熱を下げる作用がある。しかし、発汗している者には不向きな薬だ。
雪月は恐る恐る黒蓮の表情を伺うと、黒蓮は微笑みながら大きく頷いた。雪月は胸をなで下ろしながら、湯飲みののった盆を叢雲へと差し出した。
「ありがとうございます。」
叢雲は笑顔で湯飲みを受け取り、ゆっくりと時間をかけて飲み干すと黒蓮を不思議そうに見つめた。
「それにしても黒蓮さま。最近はとても表情が豊かになったのですね。前は全然笑わなかったのに。」
「そうなんですか?」
雪月は興味津々な様子で叢雲の方へ身を乗り出す。
「そうですよ。」
横で黒蓮が「そんなことはない。」と言っているのを無視して叢雲は続けた。
「黒蓮さまは元々、あまり感情を表現するのが得意ではないんですよ。」
「…叢雲。」
黒蓮は低い声で叢雲の名を呼んだが、当の叢雲は全く気にしていないようだった。
「良いことじゃないですか。雪月さまのおかげですね。」
黒蓮は少し自覚があったのか、決まりが悪そうに目を逸らしただけだった。叢雲が「どうやら素直なのは雪月さまの前だけなようですね。」と呟いたのは黒蓮の耳に届いたのだろうか。
「でも楽しそうで何よりです。日常とは特別ですからね。」
「薬学は黒蓮さまが雪月さまにお教えになっているのですか?」
「ああ。だが雪月は自ら俺に教えてくれと頼んできた。ここで甘えるだけの生活ではなく、俺の役に立ちたいんだそうだ。」
ここに居ても良いと言われるだけでなく、ここに居て何かしたいと思っていた雪月の考えは黒蓮によく伝わっていた。
「素敵なお考えですね。」
黒蓮は「全くだ。」と言って顔をほころばせた。それを少し驚いた様子で見ていた叢雲のところへ、盆を持った雪月が戻ってくる。
「桂枝湯とゆり根茶を用意しました。」
ゆり根には、潤いをもたらす効果の他に咳を鎮める働きもあるのだ。そして桂枝湯には、桂皮、大棗、甘草、生姜、芍薬という生薬が入っている。頭痛、微熱など、風邪の初期に処方するものだ。
(葛根湯と迷ったけど…。汗をかいているみたいだから桂枝湯の方がいいはず。)
葛根湯も風邪の初期に処方し、熱を下げる作用がある。しかし、発汗している者には不向きな薬だ。
雪月は恐る恐る黒蓮の表情を伺うと、黒蓮は微笑みながら大きく頷いた。雪月は胸をなで下ろしながら、湯飲みののった盆を叢雲へと差し出した。
「ありがとうございます。」
叢雲は笑顔で湯飲みを受け取り、ゆっくりと時間をかけて飲み干すと黒蓮を不思議そうに見つめた。
「それにしても黒蓮さま。最近はとても表情が豊かになったのですね。前は全然笑わなかったのに。」
「そうなんですか?」
雪月は興味津々な様子で叢雲の方へ身を乗り出す。
「そうですよ。」
横で黒蓮が「そんなことはない。」と言っているのを無視して叢雲は続けた。
「黒蓮さまは元々、あまり感情を表現するのが得意ではないんですよ。」
「…叢雲。」
黒蓮は低い声で叢雲の名を呼んだが、当の叢雲は全く気にしていないようだった。
「良いことじゃないですか。雪月さまのおかげですね。」
黒蓮は少し自覚があったのか、決まりが悪そうに目を逸らしただけだった。叢雲が「どうやら素直なのは雪月さまの前だけなようですね。」と呟いたのは黒蓮の耳に届いたのだろうか。
「でも楽しそうで何よりです。日常とは特別ですからね。」
