「では案内も兼ねつつ、鏡を取りに行くとするか。流石にもう乾いているだろうからな。……あの鏡は何か思い入れがあるのか?」
 雪月が所持していたものは鏡だけだったということもあり、黒蓮にも特別なものに見えたのだろう。そう思った雪月は自分にとって特別なものであることを話した。
「あれは母から貰ったもので…私の宝物で、お守りでもあるんです。だから黒蓮様が拾ってくれていて安心しました。」
「そうか…。ずっと大切にされてきたんだな。」
「はい!」
 そこで黒蓮が小さく「やはりそうなのか…。」と呟いていたことに雪月は気付かなかった。

「まずは鏡だな。」
 そう言うと、黒蓮は雪月を縁側へと連れて行った。日当たりの良い縁側には、座布団が敷いており、さらにその上に布が置いてある。そこに雪月の鏡があった。
「ありがとうございます。」
 雪月は手渡された鏡を大切そうに抱きしめる。
 改めて鏡を見てみるがどこも壊れておらず、幸い傷もついていなかった。
 日の光を反射して輝くそれは美くしく、色鮮やかな庭の草花を写し出す。雪月が鳥居を抜けて見た景色と同じものだ。
「庭を案内しよう。」
 そう言うと黒蓮は雪月の手を取った。
「っ…。」
 一瞬固まる雪月だったが、「段差に気をつけろ。」と言う言葉に、黒蓮は自分の怪我をした足を気にかけてくれているのだと理解した。他に思うことがあったのは、雪月が年頃の娘だからなのだろう。
(私、黒蓮様といると恥ずかしがってばかりな気がする。)
 鬼神とはいえ、黒蓮の見た目は男性である。畏怖さえ感じるその美しさには、誰であろうと一度見たら忘れないだろう。そもそもずっと母親と二人きりで暮らし、その後は一人で静かに暮らしてきた雪月にとって、男の人と話すことさえあまりなかった。村の男は多くが荒々しく、出来るだけ関わらないようにしていたのもあるが。そして出会った黒蓮の存在や振る舞いというのは、雪月を動揺させるのには十分だった。
 雪月は軽く頭を振り、それ以上考えることを止めにして辺りを見回した。
 やはり見間違いなどではなく、この辺りでは自生しないような植物まであるのだ。なんとも不思議な光景である。
「こんなに様々な植物があるのは不思議か?」
「はい。」
 植物とは、普通その環境にあったものが生きている。山の上で生きられる植物は限りがあるはずだ。