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カーネリアは、時々お茶と乾燥させた木の実を口にしながら、明日から始まる商売の手順を、モリオンに説明していく。
「明日になれば、きっと私達となじみの商人がここに来るわ。今頃の季節はいつもこの町にいるから、確実にベヌゥの合図を聞いているはずよ。私達は、彼らと一緒に商売をするの。私達鳥使いの商売はね、その商人達が私達を訪ねて来てから始まるの」
まず鳥使いの商売の始まり方を説明した後、商売で扱われる品物の種類や商売に臨む心構えを、モリオンに伝授していく。そのあいだモリオンは、カーネリアの説明をしっかりと聞き、頭に入れていた。
「商人は私達を、売りたい品物を扱っていそうな店に私達を案内してくれるわ。それからが商売の本番よ。店の商品でほしいものがあったら、持ってきた品物と交換してもらうように話し合うの。話し合いがまとまったら、それで商売は成立よ。その後は、品物を交換するか、商品の値打ちに合うだけの真珠を受け取るの。他の商人達は金属の貨幣を使うけれど、鳥使いは真珠を使うの。樹海から少し離れた海沿いの村で、大量に取れる真珠よ。」
カーネリアがモリオンに商売の仕方を伝授し終わると、二人は明日の商売に備えて、眠りに着いた。
次の日の朝早く、二人が目を覚ますともう商人達が、天幕の前まで来ていた。カーネリアがよく知っている商人ナーイと、手伝いの男女の三人だ。三人とも頭に黒い布を巻き、褐色のマントを羽織っている。
「お久しぶりね、ナーイさん」
「あぁ、前に会ったのは、冬だったかな。そちらのお嬢さんは?」
「こちらはモリオン、鳥使いになったばかりの新人よ。モリオン、こちらはナーイさん。フブィレという町の人よ」
商人との挨拶が住むと、カーネリアは商人にモリオンを紹介した。
「こんにちは」
「よろし、新入りの鳥使いさん」
ナーイはモリオンの髪の色が、他の鳥使いと違うっているのを気にすることなく、モリオンと挨拶する。それを身で、カーネリアは一安心する。商人からモリオンの事を、あれこれ聞かれたくなかったのだ。モリオンと商人ナーイとの挨拶がすむと、今度は商人が、手伝いの男女を紹介する。
「こちらはリエンとマイン、今度が初めての商売の旅の二人組だ」
ナーイに紹介してもらっても、リエンとマインの二人は固い表情でカーネリア達を睨んでいる。どうもカーネリア達が気に入らないらしい。
「すまないね、この二人はあまり鳥使いに慣れていないのだよ。なにしろ、鳥を嫌う町から初めて出てきたものなのでね」
二人は鳥を嫌う町から出てきたらしい。鳥を嫌う町や村はイナだけではない。樹海周辺部と隣接する町の中にも、鳥を嫌う町がある。リエンとマインは、そんな町の一つから来たのだろう。
「大丈夫、それより天幕に入って、荷物をみて頂戴」
カーネリアは二人の態度など気にせず、商人達を天幕に招き入れた。
天幕に入ると、カーネリア達は荷物を開け、詰め物として入れた干草の中から、荷物を一つ一つ取り出し、商人に披露していく。商人はカーネリアが差し出す品物を一つ一つ点検し、全ての品を見終わると、カーネリア達とお茶飲みながら、樹海周辺部と隣接する町で最近起こった事を話し始めた。ナーイの話しは、町同士の争いや町の指導者の人物評、さらにこの世界に一つある大陸と海を隔てた存在している小大陸リーで、小国同士の戦争の可能性がある事などに及んだ。どれもこれもカーネリア達には重要な情報なのだが、イナで生まれ育ったモリオンには、なかなか理解の難しい話のようだった。それもそのはず。国家や戦争などは、今まで知らなかったものなのだから。
[まぁ、そのうち解るから]
カーネリアは戸惑うモリオンの意識にイドで話しかけ、無理に理解しようと焦らないように伝える。自分の忠告を、モリオンが納得して受取ったのを意識で感じ取ると、カーネリアはナーイに、樹海の近況を話した。
「樹海には特に大きな変化は無いわ。でもこのところよく、何か見知らぬ武器で荒らされた鳥や獣の巣や、何かに襲われた生き物をよく見掛けるようになったわ」
話しが樹海で生き物を襲った跡を、最近よく見かける事に及ぶと、カーネリアは樹海で壊されたニジノオ鳥の巣を見つけた事をナーイに聞かせる。
「今までに無いことが、樹海に起こっているのはたしかね。まあ,私達にはあまり影響はないわ」
「そうか……樹海も一応平穏ってとこか」
「ええ、でもこの気になる異変がこれからどうなるかは、予測が付かないけど」
最期にカーネリアが不安を口にすると、暫くだれも口を開かなくなる。だがナーイがすぐに町を開き、再び会話が始まった。
「そうかい、こちらにも、樹海の気になる話があるよ」
「樹海の外側で小動物の狩りをしている連中が、見知らぬと商人に生きた樹海の鳥の商売を持ちかけられたという話しだ」
「生きた鳥の商売ですって!」
驚くような話だった。樹海の鳥を生け捕りにして、商売をしようとは……。どんな連中なのだろうか? カーネリアは驚きながらも、ナーイが連れて来た二人組のうち女性のマインが、鳥の生け捕りの話しにびくりとするのを見逃さなかった。生きた鳥の商売ついて、何かしっているのだろうか。
カーネリアはリエンとマインに注意を払いながら、ナーイの話しの続きを聞く。
「ああ、樹海の鳥を生け捕りにしたら、高く買ってやろうといわれたのだと。まぁ、逞しい樹海の鳥を生け捕れるとは、とうてい思えないけどね」
「えぇ」
ナーイの言う通りだ。樹海の鳥は、それが樹海周辺部に住む小さな鳥でも逞しく素早い。あの壊れたニジノオ鳥の巣を見れば、樹海の鳥を生け捕る力を持った連中が、現れたとも考えられた。
「それより鳥使いの長老達は元気かい」
「えぇ、とっても」
ナーイが鳥使いの長老達に話題を移したので、カーネリアはナーイに鳥使いの村の近況報告をする、ただし、ベヌゥの卵が盗まれた事やジェイドが行方不明になった事、モリオンが取りつかいになった経緯などは話さなかった。どうしてあの二人組が信用できず、彼らの前では込み入った話はしない事にしたのだ。もっともモリオンは、こんな大きな出来事を話さないのを不思議がっていたが。
[あの新顔の二人組は、まだ信用出来ない。だからね、ジェイドの話しはしないの]
カーネリアはイドでジェイドの話しをしない理由を伝えると、暫くナーイとの話を続け軽い食事をとったりした後、商売の準備をした。
カーネリア達はキュプラが運んできた荷物を商人の荷車に積み込むと、町までみんなで押していく。商売の始まりだ。カーネリアとモリオンは町の商人と同じようにマントを羽織って荷車を押す。町にいる間は、カーネリア達はあくまでも商人なのだ。やがて町に入るとカーネリア達と商人の一行は、ナーイの案内で穀物を扱う店の前に来ると、モリオンと二人だけで店に入る。この店でカーネリアは樹海でとれる薄紅岩塩で穀物と硬貨の袋を手に入れる。商売成立だ。商売を成立させて店を出たカーネリアは、店の外で待っていたナーイ達に、案内の手数料として効果の袋を渡す。 ナーイは次の店にカーネリア達を案内した。次に訪ねたのは、布や糸を扱う店だ。この店では鳥使いの村近くで取れる野蚕の繭と、町でおられた布との取引に成功する。カーネリアは達の移行はその後も四、五件の店を訪ね商売を成功させ、最後に自分達が持ってきた品物の、商売に臨んだ。
最期にカーネリア達が入った店は、薬草やその他薬になるものを扱う店だった。カーネリアとモリオンはそこで、自分達が樹海で取って来た物を商売に出す事にしていた。壁の一杯の棚や床に、たくさんのく薬草や薬を入れた壺や箱が並べられている店内に入るとまずカーネリアが、店の奥の大きな机に難しい顔をしながら座っている店主に、持参した老木の樹脂の塊を見せる。初老の男性店主は、カーネリアが方に掛けていた荷物から取り出した薄茶色のこぶし大の塊を受け取って丹念に調べ、値段を決めると机の上の木箱の蓋を開け、中の真珠を取り出した。果たしてどんな値段で売れるのが、カーネリアが注目する中で店主は木箱の真珠を南海が掴み取ると、カーネリアが差し出す袋に入れる。渡された真珠の量は、老木の樹脂の対価としては妥当な量だ。満足したカーネリアは、次にアカリバナと呼ばれる薬草を売るモリオンの様子を見守った。モリオンからアカリバナを受け取った店主は、品定めを済ませるとカーネリアの時を同じように、木箱から真珠を取り出していく。おそらくモリオンが受け取る真珠の量は、カーネリアが受け取ったのよりは少ないだろう。オカリバナは老木の樹脂ほど値打ちは無いのだから。カーネリアはそんな予測をしていたのだが、店主は老木の樹脂以上の真珠を、モリオンの袋に入れた。初めて商売をしたモリオンが、商売の経験のあるカーネリアより多く稼いでだのだ。
「ちょっと、多すぎるんじゃない?」
すかさずカーネリアが横やりを入れると、店主は黙って、机に置いたアカリバナの茎に付いた、ぶよぶよとした塊を指さした。
(ああもう、薬用きのこが付いていたとは……)
カーネリアは虫の卵の塊だろうと思っていたのだが、アカリバナの茎に付いていたのは、滅多に見つからない貴重な薬用きのこだった。このきのこに付いていれば、もっと根が張る品物を用意したのに……。新入りに負けるとは、なさけない。
「これは様々な薬になるきのこなんでね、老木の樹脂より高く買わせてもらったよ」
店主にこう言われると、カーネリアは薬用きのこに気付かなかった自分の不勉強を、ただ悔やむしかなかった。カーネリアは薬草店の店主に暇を告げると、モリオンと一緒に薬草店を後にし、この日の商売を終えた。
フォルサの町での商売を全て終えるとカーネリア達と商人の一行は、町の荷車置き場に荷車を預け、その隣の軽食屋に入る。荷車置き場は屈強な青年がいて荷車を監視しているので、荷車は安全だった。カーネリア達かが入った軽食屋で売っていたのは、ブラン麦の粉を薄く焼いたものに痛めた野菜を挟んだ軽食だけだったが、一日商売をして腹ペコだったので、コップに入れた果汁一緒に食べると、とてもおいしく感じられた。
カーネリアとモリオンは商人と今日の商売の話しをしながら食事をする。ところがカーネリア達から離れた席に座っていたリエンとマインの二人組は、そそくさ食事を済ませると、知り会いに会いに行くと言って、軽食屋を出て行ってしまった。誰に会いに行くのだろうか? 不信に思って店を出る二人を見ていたカーネリアは、黒いマントを来た人物が二人の後を追うように、店を出たのを目に止める。町でよく見かける商人の恰好をした人物だが、その人物が目に留まったとたん、カーネリアの意識に、ジェイドの意識が近寄って来た。これまでになく、強くかんじられるジェイドの意識だ。
[まさか、ジェイトなの]
慌ててイドでジェイドに呼びかけてみたが、ジェイドの意識はすぐに感じられなくなった。
「お前さん、あの二人をどう思うかね」
カーネリアはナーイに訊ねられ、ジェイドの意識を追うのを止める。
「あの二人について感じている事を率直に話してほしい。あの二人は、正体が解からないまま慌てて雇ってしまったのだよ。まぁ、家畜の扱いには長けていたし……。ところが商人仲間に、あの二人は良からぬ連中と会っていると忠告してくれる者がいてなぁ.だからあんたがあの二人に感じている事を教えてほしいのだよ。あんたら鳥使いは、人一倍感が働くから」
やはりあの二人は、訳ありだったのだ。カーネリアはナーイに、自分の率直な意見を伝える。
「そうねぇ、あの二人は見たところ真面目そうだけど、何か心を許せない雰囲気があるね」
カーネリアがナーイにやんわりと、二人が信用できない事を伝えると、ナーイは暫く考えをめぐらせてから、結論をだした。
「そうかぁ、人手が足りなくても雇うべきではなかったかな。この商売が終ったら、すぐに辞めてもらうかねぇ」
ナーイは二人を辞めさせる接心をしたようだ。とはいっても荷車で荷物を運ぶには、
あの二人の力が必要だ。カーネリア達はリエンとマインが店に戻るのを待ってから、野営地へと荷車を引きながら、帰っていった。
野営地へ戻るともうとっくに日は暮れ、夜になっていた。荷車から町で地用達した荷物を降ろし、天幕の中に運ぶと商売は終わりだ。商人ナーイと怪しい二人組はターネリアとモリオンに別れの挨拶をして野営地を去っていく。後は商売で手に入れた商品を点検し、明日に備えて寝るだけだ。明日は荷物をウルー・ベヌゥのキュプラに託すと、光の川の中州に戻る予定だ。帰りの飛行の為にゆっくり眠っておきたかったが、なかなか寝付けずにいた。なぜかジェイドの意識が近くに感じられ、眠りを妨げている。カーネリアはモリオンが寝息を立てているのを見ながら、ジェイドの意識に注意を払う。
[気を付けろ、怪しい奴らが近くにいるぞ]
ジェイドの意識はカーネリアに注意を呼び掛け、消えていった。
[ジェイド、姿を見せて、私と直接話しをして]
イドで呼びかけてもジェイドの答えは無く。カーネリアは悲しみを変えながら、しばしの眠りについた。
次の朝起きるとすぐに、カーネリアとモリオンは帰り支度を始める。商売の成果を点検して騎乗服に着替え、天幕もたたんで円筒系の物入れに入れ、カーネリアはイドでウルー・ベヌゥのキュプラを呼ぶ。荷運び専門のキュプラは姿を現すとすぐに天幕の横に着地し、カーネリアは蹲ったキュプラの背中に登るとキュプラの背中にウルー・ベヌゥが背負う器具を取り付け、その上に荷物を入れた円筒形の物入れを乗せて太い縄で縛ると、キュプラを空に飛ばした。ウルー・ベヌゥは背中の荷物をものともせずに空に飛び立ち、鳥使いの村へと飛んでいく。
ウルー・ベヌゥの姿が見えなくなると、カーネリアとモリオンは、自分達のパートナーを呼ぶ。
[ブルージョン]
カーネリアがイドでブルージョンに呼びかけると、ブルージョンはジェダイドと共に空の彼方から飛んできた。後は野営地の叢に、着地させればいいだけだ。ところがその時、異変が起きた。何故かベヌゥ達は、鳥使いの支持に従わず、湖に向かって飛んで行った。
[ブルージョン!]
こカーネリアは意識を集中させ、イドでパートナーと意識を賢明に繋ごうとする。こういうとき鳥使いが真っ先にするのは、自分の意識をパートナーに繋げる事だが、新米鳥使いのモリオンは、慌ててベヌゥ達追って走りだす。このままではベヌウを追って、危険な方向に走っていくかもしれない。
「モリオン、追いかけてはだめ」
カーネリアはモリオンと止めようと、後を追って走り出した。
カーネリアは草地を走って抜け、大きな湖の湖畔まで続く坂道を下り、湖畔に辿り着く。湖畔に生えるたれの高い草の群生の前まで来ると、ベヌゥ達が湖の白い水鳥達と一緒に、湖やその湖畔上空を、円を描いて飛ぶのが見えたのだが、草に隠れたモリオンとは、はぐれてしまっていた。カーネリアはさらに丈の高い草を掻き分け、ぬかるみに注意しながら進で行き、モリオンを探す。幸いにも丈の高い草の群生には、モリオンが草をかき分けていった跡があり、カーネリアはそれを頼りに草の中を進み、湖畔にある小高い丘に上がる坂に入った。
ぬかるみから開放され、丘を登り丈の高い草が無い丘の上に来ると、湖の上を旋回するベヌゥ達を見ているモリオンが見えた。無数の白い水鳥達と空を飛ぶベヌゥ達は、いきなり急降下すると湖畔を掠め、上昇する。それを何度か繰り返した後、カーネリアはブルージョンが脚の爪に何かを引っかけているのに気付く。木で作られた籠だ。ベヌゥの足の爪からぶら下がっている籠には、虹色の光沢がある羽毛の鳥が入れられ、鳴き声を上げている。ニジノオ鳥の雛に間違いない。
フォルサに来る前に見た、荒らされた巣の雛の様だ。籠の中の雛はベヌゥに持ち上げられておびえ、かごの中でばたつき、身体を籠にぶつけている。モリオンは雛に自分の意識を向け、安心させようとしていた。だが雛が落ち着く前に、カーネリアの後ろから光が音を立てて飛び出し、ベヌゥ達を襲う。カーネリアはベヌゥ達が巧みに飛んできた光を避けたのを見ると後ろを振り向き、自分に向かってくる男に素早く石を拾って投げつけた。商人のマントを来た男は石に打ちのめされ、草の上に倒れこむ。顔を見るとあの怪しい二人組の一人、リエンだった。やはりあの二人組は、樹海の鳥の生け捕りに関係していたのだ。しかいしリエンは光を放つような道具は持っていない。あの光を放った人間は別にいる。カーネリアが身構えていると、再び光が空に放たれ、ベヌゥ達が巧みに避けているのが見えた。水鳥達は姿を消し、ブルージョンはニジノオ鳥の籠ごと急上昇し、空の彼方に姿を隠した。カーネリアは再び石を拾うと、丘の上で呆然としているモリオンに、大声で叫ぶ。
「モリオン、ジェダイドを上昇させて、早く!」
しかしカーネリアに振り向いて見せたモリオンは、呆然としたままだ。
「彼方を襲おうとしていたわ。モリオン、早くジェダイドを上昇させて!」
カーネリアもう一度大声で叫び、モリオンはやっと気づいたらしく、ジェダイドを急上昇させようとした。しかしその前に、カーネリアの後ろから飛んできた光がジェダイドの翼の先を掠めると、ジェダイドの様子が変化した。羽毛の色を変え、冠毛や頭から背中にかけての羽毛をおもいっきり逆立てて羽毛の裏の鮮やかな赤色を見せ、見開かれた目は炎の色を帯びている。ベヌゥの抑えきれない怒りが見せる、怒りの形相だ。まるで火の鳥とでも言いたくなるような姿だ。
「落ち着いて、ジェダイド」
モリオンは怒るジェダイドを落ち着かせようとするが、ジェダイドは、光が飛んできた場所を目がけて急降下し、足の爪で草を掻き分け、隠れていた人間を駆り出した。
「ジェダイド!」
叢から人の悲鳴があがり、ベヌゥに追われた人間達が叢から出ると、カーネリア達に向かって走り出した。
「やってくれたね、ジェダイド。モリオンは隠れてなさい」
モリオンに命令するとカーネリアは、自分に向かって走って来る二人の男の一人を頭に石を投げつけて気絶させ、もう一人は勢いよく飛び掛ってきたところを膝げりで地面に倒し、さらに後から姿を現した女を取り押さえた。女はあの二人組の片割れ、マインだった。
「あのニジノオ鳥をどうしようとしたの? さあ言いなさい」
カーネリアはマインを厳しく問い詰める。空ではジェダイドが相変わらず怒りの形相で空を旋回し、マインを震え上がらせていた。しかもジェダイドは、何やら金属の棒のようなものを足の爪に挟んでいる。叢で拾ったのだろう。もしたしたら、ベヌゥ達を襲った、光を放つ武器かもしれない。ジェダイドは飛び回りながら足に力を入れ、つかんでいた武器を破壊していしまった。ジェダイドは自分を襲ったものを壊して、気が静まったのだろう。道具の破片が地面に落ちてしまうと、ジェダイドは怒りの形相から元の姿に戻っていく。ベヌゥがその力強さを現した瞬間だった。カーネリアに取り押さえられたマインは、ジェダイドに見せつけられたベヌゥの力にすっかり怯え、弱々しい声で話し始める。
カーネリアは、時々お茶と乾燥させた木の実を口にしながら、明日から始まる商売の手順を、モリオンに説明していく。
「明日になれば、きっと私達となじみの商人がここに来るわ。今頃の季節はいつもこの町にいるから、確実にベヌゥの合図を聞いているはずよ。私達は、彼らと一緒に商売をするの。私達鳥使いの商売はね、その商人達が私達を訪ねて来てから始まるの」
まず鳥使いの商売の始まり方を説明した後、商売で扱われる品物の種類や商売に臨む心構えを、モリオンに伝授していく。そのあいだモリオンは、カーネリアの説明をしっかりと聞き、頭に入れていた。
「商人は私達を、売りたい品物を扱っていそうな店に私達を案内してくれるわ。それからが商売の本番よ。店の商品でほしいものがあったら、持ってきた品物と交換してもらうように話し合うの。話し合いがまとまったら、それで商売は成立よ。その後は、品物を交換するか、商品の値打ちに合うだけの真珠を受け取るの。他の商人達は金属の貨幣を使うけれど、鳥使いは真珠を使うの。樹海から少し離れた海沿いの村で、大量に取れる真珠よ。」
カーネリアがモリオンに商売の仕方を伝授し終わると、二人は明日の商売に備えて、眠りに着いた。
次の日の朝早く、二人が目を覚ますともう商人達が、天幕の前まで来ていた。カーネリアがよく知っている商人ナーイと、手伝いの男女の三人だ。三人とも頭に黒い布を巻き、褐色のマントを羽織っている。
「お久しぶりね、ナーイさん」
「あぁ、前に会ったのは、冬だったかな。そちらのお嬢さんは?」
「こちらはモリオン、鳥使いになったばかりの新人よ。モリオン、こちらはナーイさん。フブィレという町の人よ」
商人との挨拶が住むと、カーネリアは商人にモリオンを紹介した。
「こんにちは」
「よろし、新入りの鳥使いさん」
ナーイはモリオンの髪の色が、他の鳥使いと違うっているのを気にすることなく、モリオンと挨拶する。それを身で、カーネリアは一安心する。商人からモリオンの事を、あれこれ聞かれたくなかったのだ。モリオンと商人ナーイとの挨拶がすむと、今度は商人が、手伝いの男女を紹介する。
「こちらはリエンとマイン、今度が初めての商売の旅の二人組だ」
ナーイに紹介してもらっても、リエンとマインの二人は固い表情でカーネリア達を睨んでいる。どうもカーネリア達が気に入らないらしい。
「すまないね、この二人はあまり鳥使いに慣れていないのだよ。なにしろ、鳥を嫌う町から初めて出てきたものなのでね」
二人は鳥を嫌う町から出てきたらしい。鳥を嫌う町や村はイナだけではない。樹海周辺部と隣接する町の中にも、鳥を嫌う町がある。リエンとマインは、そんな町の一つから来たのだろう。
「大丈夫、それより天幕に入って、荷物をみて頂戴」
カーネリアは二人の態度など気にせず、商人達を天幕に招き入れた。
天幕に入ると、カーネリア達は荷物を開け、詰め物として入れた干草の中から、荷物を一つ一つ取り出し、商人に披露していく。商人はカーネリアが差し出す品物を一つ一つ点検し、全ての品を見終わると、カーネリア達とお茶飲みながら、樹海周辺部と隣接する町で最近起こった事を話し始めた。ナーイの話しは、町同士の争いや町の指導者の人物評、さらにこの世界に一つある大陸と海を隔てた存在している小大陸リーで、小国同士の戦争の可能性がある事などに及んだ。どれもこれもカーネリア達には重要な情報なのだが、イナで生まれ育ったモリオンには、なかなか理解の難しい話のようだった。それもそのはず。国家や戦争などは、今まで知らなかったものなのだから。
[まぁ、そのうち解るから]
カーネリアは戸惑うモリオンの意識にイドで話しかけ、無理に理解しようと焦らないように伝える。自分の忠告を、モリオンが納得して受取ったのを意識で感じ取ると、カーネリアはナーイに、樹海の近況を話した。
「樹海には特に大きな変化は無いわ。でもこのところよく、何か見知らぬ武器で荒らされた鳥や獣の巣や、何かに襲われた生き物をよく見掛けるようになったわ」
話しが樹海で生き物を襲った跡を、最近よく見かける事に及ぶと、カーネリアは樹海で壊されたニジノオ鳥の巣を見つけた事をナーイに聞かせる。
「今までに無いことが、樹海に起こっているのはたしかね。まあ,私達にはあまり影響はないわ」
「そうか……樹海も一応平穏ってとこか」
「ええ、でもこの気になる異変がこれからどうなるかは、予測が付かないけど」
最期にカーネリアが不安を口にすると、暫くだれも口を開かなくなる。だがナーイがすぐに町を開き、再び会話が始まった。
「そうかい、こちらにも、樹海の気になる話があるよ」
「樹海の外側で小動物の狩りをしている連中が、見知らぬと商人に生きた樹海の鳥の商売を持ちかけられたという話しだ」
「生きた鳥の商売ですって!」
驚くような話だった。樹海の鳥を生け捕りにして、商売をしようとは……。どんな連中なのだろうか? カーネリアは驚きながらも、ナーイが連れて来た二人組のうち女性のマインが、鳥の生け捕りの話しにびくりとするのを見逃さなかった。生きた鳥の商売ついて、何かしっているのだろうか。
カーネリアはリエンとマインに注意を払いながら、ナーイの話しの続きを聞く。
「ああ、樹海の鳥を生け捕りにしたら、高く買ってやろうといわれたのだと。まぁ、逞しい樹海の鳥を生け捕れるとは、とうてい思えないけどね」
「えぇ」
ナーイの言う通りだ。樹海の鳥は、それが樹海周辺部に住む小さな鳥でも逞しく素早い。あの壊れたニジノオ鳥の巣を見れば、樹海の鳥を生け捕る力を持った連中が、現れたとも考えられた。
「それより鳥使いの長老達は元気かい」
「えぇ、とっても」
ナーイが鳥使いの長老達に話題を移したので、カーネリアはナーイに鳥使いの村の近況報告をする、ただし、ベヌゥの卵が盗まれた事やジェイドが行方不明になった事、モリオンが取りつかいになった経緯などは話さなかった。どうしてあの二人組が信用できず、彼らの前では込み入った話はしない事にしたのだ。もっともモリオンは、こんな大きな出来事を話さないのを不思議がっていたが。
[あの新顔の二人組は、まだ信用出来ない。だからね、ジェイドの話しはしないの]
カーネリアはイドでジェイドの話しをしない理由を伝えると、暫くナーイとの話を続け軽い食事をとったりした後、商売の準備をした。
カーネリア達はキュプラが運んできた荷物を商人の荷車に積み込むと、町までみんなで押していく。商売の始まりだ。カーネリアとモリオンは町の商人と同じようにマントを羽織って荷車を押す。町にいる間は、カーネリア達はあくまでも商人なのだ。やがて町に入るとカーネリア達と商人の一行は、ナーイの案内で穀物を扱う店の前に来ると、モリオンと二人だけで店に入る。この店でカーネリアは樹海でとれる薄紅岩塩で穀物と硬貨の袋を手に入れる。商売成立だ。商売を成立させて店を出たカーネリアは、店の外で待っていたナーイ達に、案内の手数料として効果の袋を渡す。 ナーイは次の店にカーネリア達を案内した。次に訪ねたのは、布や糸を扱う店だ。この店では鳥使いの村近くで取れる野蚕の繭と、町でおられた布との取引に成功する。カーネリアは達の移行はその後も四、五件の店を訪ね商売を成功させ、最後に自分達が持ってきた品物の、商売に臨んだ。
最期にカーネリア達が入った店は、薬草やその他薬になるものを扱う店だった。カーネリアとモリオンはそこで、自分達が樹海で取って来た物を商売に出す事にしていた。壁の一杯の棚や床に、たくさんのく薬草や薬を入れた壺や箱が並べられている店内に入るとまずカーネリアが、店の奥の大きな机に難しい顔をしながら座っている店主に、持参した老木の樹脂の塊を見せる。初老の男性店主は、カーネリアが方に掛けていた荷物から取り出した薄茶色のこぶし大の塊を受け取って丹念に調べ、値段を決めると机の上の木箱の蓋を開け、中の真珠を取り出した。果たしてどんな値段で売れるのが、カーネリアが注目する中で店主は木箱の真珠を南海が掴み取ると、カーネリアが差し出す袋に入れる。渡された真珠の量は、老木の樹脂の対価としては妥当な量だ。満足したカーネリアは、次にアカリバナと呼ばれる薬草を売るモリオンの様子を見守った。モリオンからアカリバナを受け取った店主は、品定めを済ませるとカーネリアの時を同じように、木箱から真珠を取り出していく。おそらくモリオンが受け取る真珠の量は、カーネリアが受け取ったのよりは少ないだろう。オカリバナは老木の樹脂ほど値打ちは無いのだから。カーネリアはそんな予測をしていたのだが、店主は老木の樹脂以上の真珠を、モリオンの袋に入れた。初めて商売をしたモリオンが、商売の経験のあるカーネリアより多く稼いでだのだ。
「ちょっと、多すぎるんじゃない?」
すかさずカーネリアが横やりを入れると、店主は黙って、机に置いたアカリバナの茎に付いた、ぶよぶよとした塊を指さした。
(ああもう、薬用きのこが付いていたとは……)
カーネリアは虫の卵の塊だろうと思っていたのだが、アカリバナの茎に付いていたのは、滅多に見つからない貴重な薬用きのこだった。このきのこに付いていれば、もっと根が張る品物を用意したのに……。新入りに負けるとは、なさけない。
「これは様々な薬になるきのこなんでね、老木の樹脂より高く買わせてもらったよ」
店主にこう言われると、カーネリアは薬用きのこに気付かなかった自分の不勉強を、ただ悔やむしかなかった。カーネリアは薬草店の店主に暇を告げると、モリオンと一緒に薬草店を後にし、この日の商売を終えた。
フォルサの町での商売を全て終えるとカーネリア達と商人の一行は、町の荷車置き場に荷車を預け、その隣の軽食屋に入る。荷車置き場は屈強な青年がいて荷車を監視しているので、荷車は安全だった。カーネリア達かが入った軽食屋で売っていたのは、ブラン麦の粉を薄く焼いたものに痛めた野菜を挟んだ軽食だけだったが、一日商売をして腹ペコだったので、コップに入れた果汁一緒に食べると、とてもおいしく感じられた。
カーネリアとモリオンは商人と今日の商売の話しをしながら食事をする。ところがカーネリア達から離れた席に座っていたリエンとマインの二人組は、そそくさ食事を済ませると、知り会いに会いに行くと言って、軽食屋を出て行ってしまった。誰に会いに行くのだろうか? 不信に思って店を出る二人を見ていたカーネリアは、黒いマントを来た人物が二人の後を追うように、店を出たのを目に止める。町でよく見かける商人の恰好をした人物だが、その人物が目に留まったとたん、カーネリアの意識に、ジェイドの意識が近寄って来た。これまでになく、強くかんじられるジェイドの意識だ。
[まさか、ジェイトなの]
慌ててイドでジェイドに呼びかけてみたが、ジェイドの意識はすぐに感じられなくなった。
「お前さん、あの二人をどう思うかね」
カーネリアはナーイに訊ねられ、ジェイドの意識を追うのを止める。
「あの二人について感じている事を率直に話してほしい。あの二人は、正体が解からないまま慌てて雇ってしまったのだよ。まぁ、家畜の扱いには長けていたし……。ところが商人仲間に、あの二人は良からぬ連中と会っていると忠告してくれる者がいてなぁ.だからあんたがあの二人に感じている事を教えてほしいのだよ。あんたら鳥使いは、人一倍感が働くから」
やはりあの二人は、訳ありだったのだ。カーネリアはナーイに、自分の率直な意見を伝える。
「そうねぇ、あの二人は見たところ真面目そうだけど、何か心を許せない雰囲気があるね」
カーネリアがナーイにやんわりと、二人が信用できない事を伝えると、ナーイは暫く考えをめぐらせてから、結論をだした。
「そうかぁ、人手が足りなくても雇うべきではなかったかな。この商売が終ったら、すぐに辞めてもらうかねぇ」
ナーイは二人を辞めさせる接心をしたようだ。とはいっても荷車で荷物を運ぶには、
あの二人の力が必要だ。カーネリア達はリエンとマインが店に戻るのを待ってから、野営地へと荷車を引きながら、帰っていった。
野営地へ戻るともうとっくに日は暮れ、夜になっていた。荷車から町で地用達した荷物を降ろし、天幕の中に運ぶと商売は終わりだ。商人ナーイと怪しい二人組はターネリアとモリオンに別れの挨拶をして野営地を去っていく。後は商売で手に入れた商品を点検し、明日に備えて寝るだけだ。明日は荷物をウルー・ベヌゥのキュプラに託すと、光の川の中州に戻る予定だ。帰りの飛行の為にゆっくり眠っておきたかったが、なかなか寝付けずにいた。なぜかジェイドの意識が近くに感じられ、眠りを妨げている。カーネリアはモリオンが寝息を立てているのを見ながら、ジェイドの意識に注意を払う。
[気を付けろ、怪しい奴らが近くにいるぞ]
ジェイドの意識はカーネリアに注意を呼び掛け、消えていった。
[ジェイド、姿を見せて、私と直接話しをして]
イドで呼びかけてもジェイドの答えは無く。カーネリアは悲しみを変えながら、しばしの眠りについた。
次の朝起きるとすぐに、カーネリアとモリオンは帰り支度を始める。商売の成果を点検して騎乗服に着替え、天幕もたたんで円筒系の物入れに入れ、カーネリアはイドでウルー・ベヌゥのキュプラを呼ぶ。荷運び専門のキュプラは姿を現すとすぐに天幕の横に着地し、カーネリアは蹲ったキュプラの背中に登るとキュプラの背中にウルー・ベヌゥが背負う器具を取り付け、その上に荷物を入れた円筒形の物入れを乗せて太い縄で縛ると、キュプラを空に飛ばした。ウルー・ベヌゥは背中の荷物をものともせずに空に飛び立ち、鳥使いの村へと飛んでいく。
ウルー・ベヌゥの姿が見えなくなると、カーネリアとモリオンは、自分達のパートナーを呼ぶ。
[ブルージョン]
カーネリアがイドでブルージョンに呼びかけると、ブルージョンはジェダイドと共に空の彼方から飛んできた。後は野営地の叢に、着地させればいいだけだ。ところがその時、異変が起きた。何故かベヌゥ達は、鳥使いの支持に従わず、湖に向かって飛んで行った。
[ブルージョン!]
こカーネリアは意識を集中させ、イドでパートナーと意識を賢明に繋ごうとする。こういうとき鳥使いが真っ先にするのは、自分の意識をパートナーに繋げる事だが、新米鳥使いのモリオンは、慌ててベヌゥ達追って走りだす。このままではベヌウを追って、危険な方向に走っていくかもしれない。
「モリオン、追いかけてはだめ」
カーネリアはモリオンと止めようと、後を追って走り出した。
カーネリアは草地を走って抜け、大きな湖の湖畔まで続く坂道を下り、湖畔に辿り着く。湖畔に生えるたれの高い草の群生の前まで来ると、ベヌゥ達が湖の白い水鳥達と一緒に、湖やその湖畔上空を、円を描いて飛ぶのが見えたのだが、草に隠れたモリオンとは、はぐれてしまっていた。カーネリアはさらに丈の高い草を掻き分け、ぬかるみに注意しながら進で行き、モリオンを探す。幸いにも丈の高い草の群生には、モリオンが草をかき分けていった跡があり、カーネリアはそれを頼りに草の中を進み、湖畔にある小高い丘に上がる坂に入った。
ぬかるみから開放され、丘を登り丈の高い草が無い丘の上に来ると、湖の上を旋回するベヌゥ達を見ているモリオンが見えた。無数の白い水鳥達と空を飛ぶベヌゥ達は、いきなり急降下すると湖畔を掠め、上昇する。それを何度か繰り返した後、カーネリアはブルージョンが脚の爪に何かを引っかけているのに気付く。木で作られた籠だ。ベヌゥの足の爪からぶら下がっている籠には、虹色の光沢がある羽毛の鳥が入れられ、鳴き声を上げている。ニジノオ鳥の雛に間違いない。
フォルサに来る前に見た、荒らされた巣の雛の様だ。籠の中の雛はベヌゥに持ち上げられておびえ、かごの中でばたつき、身体を籠にぶつけている。モリオンは雛に自分の意識を向け、安心させようとしていた。だが雛が落ち着く前に、カーネリアの後ろから光が音を立てて飛び出し、ベヌゥ達を襲う。カーネリアはベヌゥ達が巧みに飛んできた光を避けたのを見ると後ろを振り向き、自分に向かってくる男に素早く石を拾って投げつけた。商人のマントを来た男は石に打ちのめされ、草の上に倒れこむ。顔を見るとあの怪しい二人組の一人、リエンだった。やはりあの二人組は、樹海の鳥の生け捕りに関係していたのだ。しかいしリエンは光を放つような道具は持っていない。あの光を放った人間は別にいる。カーネリアが身構えていると、再び光が空に放たれ、ベヌゥ達が巧みに避けているのが見えた。水鳥達は姿を消し、ブルージョンはニジノオ鳥の籠ごと急上昇し、空の彼方に姿を隠した。カーネリアは再び石を拾うと、丘の上で呆然としているモリオンに、大声で叫ぶ。
「モリオン、ジェダイドを上昇させて、早く!」
しかしカーネリアに振り向いて見せたモリオンは、呆然としたままだ。
「彼方を襲おうとしていたわ。モリオン、早くジェダイドを上昇させて!」
カーネリアもう一度大声で叫び、モリオンはやっと気づいたらしく、ジェダイドを急上昇させようとした。しかしその前に、カーネリアの後ろから飛んできた光がジェダイドの翼の先を掠めると、ジェダイドの様子が変化した。羽毛の色を変え、冠毛や頭から背中にかけての羽毛をおもいっきり逆立てて羽毛の裏の鮮やかな赤色を見せ、見開かれた目は炎の色を帯びている。ベヌゥの抑えきれない怒りが見せる、怒りの形相だ。まるで火の鳥とでも言いたくなるような姿だ。
「落ち着いて、ジェダイド」
モリオンは怒るジェダイドを落ち着かせようとするが、ジェダイドは、光が飛んできた場所を目がけて急降下し、足の爪で草を掻き分け、隠れていた人間を駆り出した。
「ジェダイド!」
叢から人の悲鳴があがり、ベヌゥに追われた人間達が叢から出ると、カーネリア達に向かって走り出した。
「やってくれたね、ジェダイド。モリオンは隠れてなさい」
モリオンに命令するとカーネリアは、自分に向かって走って来る二人の男の一人を頭に石を投げつけて気絶させ、もう一人は勢いよく飛び掛ってきたところを膝げりで地面に倒し、さらに後から姿を現した女を取り押さえた。女はあの二人組の片割れ、マインだった。
「あのニジノオ鳥をどうしようとしたの? さあ言いなさい」
カーネリアはマインを厳しく問い詰める。空ではジェダイドが相変わらず怒りの形相で空を旋回し、マインを震え上がらせていた。しかもジェダイドは、何やら金属の棒のようなものを足の爪に挟んでいる。叢で拾ったのだろう。もしたしたら、ベヌゥ達を襲った、光を放つ武器かもしれない。ジェダイドは飛び回りながら足に力を入れ、つかんでいた武器を破壊していしまった。ジェダイドは自分を襲ったものを壊して、気が静まったのだろう。道具の破片が地面に落ちてしまうと、ジェダイドは怒りの形相から元の姿に戻っていく。ベヌゥがその力強さを現した瞬間だった。カーネリアに取り押さえられたマインは、ジェダイドに見せつけられたベヌゥの力にすっかり怯え、弱々しい声で話し始める。