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 知識の塔でのモリオンの始まると、それに合わせてベヌゥの雛の成長も、ますます早くなっていく。もう大きくなりすぎて、カーネリアやモリオンと同じ家にいられなくなり、雛の為にもう一つ家を要しなければならなかった。しかもベヌゥの雛は外に出て自由にさせられると、しきり羽根を羽ばたかせる仕草をした。巣立ちが間近に迫っているのだ。このころになるとカーネリアは、モリオンと共に雛の様子を注意深く見守り、いつ雛が巣立ってもいいように、心の準備をする。
 ベヌゥの雛は自分専用の家をもらってからも成長を続け、外見は大人のベヌゥとほとんど同じになっていた。鳥使いのベヌゥなら、もうとっくに巣立ちをしているのだが、モリオンが育てている雛は、なかなか巣立ちをしようといない。やはり樹海の外で生まれた影響があるのだろうか? カーネリアは不安に感じ始めた時、巣立ちの時が突然にやって来た。

 その日の明け方、カーネリアはここにいないはずのジェイドの声に呼ばれ、目を覚ました。
[ジェイド、此処にいるの?]
カーネリアは寝具の上で上半身を起こすと、ジェイドの声を聞こうとする。しかしジェイドの声聞こえず、代わりに激しくなくベヌゥの声が聞こえて来る。家の外で、ベヌゥの雛が鳴いているのだ。
「ま、まさか!」
不安に駆られたカーネリアは素早く身支度を整えると、寝ているモリオンを残し家の外へと向かう。家の外では成鳥と同じ大きさになった雛が家の前で、翼を羽ばたかせながら空に向かって鳴いている。
(まさか、巣立ちなの!)
今ベヌゥの雛がしている行動は、まさに雛が飛び立とうとする前に、必ず行う行動そのものだった。巣立とうとする雛はまず翼をはためかせながら暫く鳴き続け、その後は気の上などの高い場所に上り、空へと飛び出していく。姿を現さないシェイドは雛の巣立ちが始まるのを、カーネリアの意識に伝えてきたのだ。カーネリアが見守る前でベヌゥの雛は激しく翼を動かし続け、ひときわ大きな声で鳴いた。飛び立つのに適当な、自分が登れる高い場所を探しているのだ。しかしこの中州には、知識の塔以外に高い場所はない。それに高い場所まで移動させるのは、雛のパートナーであるモリオンだけ。おそらくモリオンも、雛になにが起こっているのか気付いているだろう。カーネリアはモリオンが起きてくるまで、自分が雛を見守るつもりだった。だがその必要もなさそうだ。
「カーネリア!」
慌てて家から出て来たモリオンに声を掛けられ、カーネリアはモリオンが起きて来たのに気付く。モリオンだけではない。モリオンが連れて来た家禽達も家に出てきて、ベヌゥの雛を見ていた。カーネリアの意識に、雛の様子に戸惑うカーネリアの意識が飛び込んでくる。しかしカーネリアはモリオンの不安を感じながらも、そのまま雛の様子を見続けた。巣立つ雛に対応できるのは、モリオンだけなのだ。モリオンはカーネリアが手を貸してくれないのを見ると雛の元に行くと暫く雛とお互いを見つめ合った後、雛の羽根に置くと知識の塔に雛を導いていく。モリオンは、雛が高いところに上りたがっているのを感じ取り、知識の塔に上らせようとしているのだ。塔の頂上なら、ベヌゥの雛の巣立ちにぴったりだ。
 ベヌゥの雛は知識の塔の前に来ると、カーネリアが思った通りに塔の頂上を目指して登り始める。早く空を飛びたいという欲求が、ベヌゥの雛を駆り立てているのが、カーネリアの意識に伝わってくる。一刻でも早く空に飛び立ち、知識の塔に近付いてきている仲間と空を飛び回りたい。その一心でベヌゥの雛は知識の塔に駆け上り、翼を大きく広げてはためかせ、空へと飛び出していく。巣立ちの瞬間だ。空に飛び出したベヌゥの雛は若い雄のベヌゥとなり、ぎこちないながらも力強い羽ばたきで、知識の塔のある中州の上を飛び回る。見事な巣立ちだ。後はモリオンがこの若いベヌゥに乗れるようになれば、新しい鳥使いが誕生だ。順調にいけば。ところがカーネリアの目の前で、想定外の出来事が起こった。空を飛ぶ若いベヌゥを追っていたモリオンが、中州を取り囲む断崖の縁まで走り出したのだ。そこは中州を取り囲むようにして建てられた家が無く、脚を踏みはずめせば川へと転落してしまう場所だ。
「危ない!」
カーネリアが大声で叫ぶとモリオンは断崖に気づいたらしく、崖っぷちで踏み止まる。
「モリオン」
カーネリアはモリオンの意識を正気に戻そうと、なおも大声で叫ぶ。ところがモリオンは次の瞬間、思いがけない行動をとった。断崖の下を飛ぶ若いベヌゥに向かって、崖っぷちから飛び降りたのだ。宙を舞うモリオンは息を飲むカーネリアの目の前で、巣立ちしたばかりのベヌゥの背中に飛び乗り、そのまま若いベヌゥと飛行を続ける。
「なっ、なんてこと」
呆気にとられるカーネリアを後目に、モリオンを乗せたカーネリアは初めての飛行を悠然と続ける。
「まるで……ハリの再来みたい」
若きベヌゥと新しい鳥使いの初飛行を見守るカーネリアはいつのまにか、この世で初めての鳥使いが誕生する光景を思い出していた。鳥使いの祖であるハリも、崖からベヌゥの背に飛び乗ったと、鳥使い達には語り継がれている。正にそれと同じような事が、カーネリアが見ている中で起こったのだ。カーネリアだけではない、いつの間にか鳥使いを乗せたベヌゥが知識の塔の上に現れ、モリオンと若いベヌゥを見守っていた。しそしてものベヌウ達の先頭に、カーネリアのパートナーのブルージョンがいた。
 樹海周辺部で仕事をしていた鳥使い達とそのパートナーが、ベヌゥの雛の巣立ちを知り、駆けつけてくれたのだ。いや鳥使い達だけではない。多くの鳥使い達の意識と一緒にジェイドの意識も隠れるように存在しているのを、カーネリアは感じていた。
[ジェイド、何処にいるの]
イドを使って呼びかけるとジェイドの意識は、逃げるようにカーネリアの意識から遠ざかっていく。
[モリオンとジェダイドを頼む]
ジェイドの意識は、ある重要な事を伝えてから、カーネリアから離れていった。若いベヌゥの名前だ。ベヌゥは初めて鳥使いを乗せた時、鳥使いとの間で自分の名前を決める。もっともベヌゥ自身はそれを名前と思っているかは判らないが、自分をこう呼んでほしいというものを、ベヌゥは鳥使いに伝えるのだ。カーネリアのパートナー名前をジェダイドに決め、ジェイドの意識はその事を知らせてから、去っていたのだ。
モリオンと若いベヌゥジェダイドは、鳥使いを乗せたベヌゥ達と一緒に暫く空を旋回すると、ゆっくりと知識の塔の前へと降りて来た。
「モリオン! 彼方って人は……」
カーネリアはモリオンと若いベヌゥの元に走っていくと、ベヌゥの背から降りたモリオンをそっと抱きしめる。
「カーネリア。ジェイドが……ジェイドが私を励ましてくれたの。ジェイドは私達を見守っているのよ。でも、私の呼び掛けには答えてくれなかった……」
「解っている。今は姿を隠していても、ジェイドは再び私達と意識を繋げてくれたのよ。何時かジェイドが姿を現してくれるのを待ちましょう」
モリオンはジェイドの意識を感じていた。カーネリアは落ち着かせようとして静かに話し掛ける。
「モリオン、貴方を励ましているはジェイドだけじゃないのよ。ほらご覧なさい」
カーネリアが空を見上げると、モリオンも一緒に空を見上げる。だがモリオンは空を舞う沢山の鳥使いを乗せたベヌゥを見て、後ずさりをする。モリオンは自分達を祝福しに来てくれた鳥使い達と、意識を繋げられたらしい。いや、知識の塔まで来てくれた鳥使い達だけでなく鳥使い全員と意識を繋げたのだ。それはモリオンが新入りの鳥使いとして受け入れられた印だった。鳥使いを目指す少年少女達は、鳥使い達全員と意識を繋げた瞬間に、新入り鳥使いとしてみとめられるのだから。
「モリオン! しっかりして頂戴」
カーネリアはモリオンを落ち着かせようと、モリオンに起こっている事を語り聞かせる。
「彼方の心は、全ての鳥使い達の心と繋がったのよ。これで彼方に鳥使いになる資格があるのがはっきりしたんだから。ほら見て……。彼ら全員が彼方を受け入れなければ、鳥使い全員の意識と繋がれない。みんなの意識と繋がっていないと、鳥使いにはなれない。でも、彼方はちゃんとみんなの意識と繋がれた。それもジェダイドの初飛行の時に!」
カーネリアはモリオンに鳥使い達に新入り鳥使いとして認められたのを理解させようとしたものの、モリオンはまだ呆然としたままだ。そんなモリオンにお構いなく、鳥使い達は鳥使いを歓迎する儀式を始めた。鳥使い達は一人ずつベヌゥを中州に着地させると、モリオンの手をしっかり握りしめ、お互い意識がつながっているのをしかめてから再びベヌゥに乗り、空へと戻っていく。この儀式を繰り返して最期の鳥使いが空に戻っていった時、モリオンは自分が新入り鳥使いになったのを確信していた。しかし新入り鳥使いになっても、モリオンの知識の塔での修行は続く。鳥使いの村に行くには、巣立ちしたばかりのジェダイドを、モリオンが乗りこなせるように訓練する必要があった。モリオンはジェダイドに乗り、鳥使いの村まで飛ばねばならないのだから。自らベヌウに乗り、深緑の鳥使いの村まで飛んでいかないと、知識の塔での修行は、卒業とならないのだから。ジエダイドの巣立ちの次の日から、モリオンの鳥使い修行は、次の段階を迎えた。
 モリオンがジェダイドと本格的な飛行訓練を始め、ベヌゥに乗りなれて来たころ、鳥使い村で訓練を受けていた新入り鳥使い達の一団が、中州へとやって来た。七人と七羽の一団は三日間の予定で、知識の塔で鳥使いの歴史と知識の塔に収められている記録について学んだ後、樹海周辺部と隣接する町に商売を体験しに行くのだという。教育係の鳥使いに率いられ、鳥使いの大事な仕事である商売を体験するのも、新入り鳥使いの大事な修行なのだ。カーネリアは新入り鳥使いの一行が来ると、モリオンを新入り達と行動を共にさせた。モリオンはそれからの三日間を新入り達と共に樹海を飛び、知識の塔の前の広場でパートナーのベヌゥと眠り、知識の塔で教育係の話しを聞いた。知識の塔で聞く話しは、モリオンにとってすでにカーネリアから聞いていたものなのだが、モリオンは何も言わずに新入り鳥使い達と行動を共にした。そして新入り鳥使い達と教育係がベヌゥに乗って中州から去っていくと、近くモリリオンを連れて商売に行くことを告げた。
「他の新入りさんとは順番が逆になってしまったけど、あなたも商売を体験しなければならないのよ」
カーネリアは樹海の産物と町で作られた者とを交換する商売の意義をモリオンに教え、商売の準備をした。樹海周辺部と隣接する町での商売体験を終えで中巣に戻ってくると、鳥使い達が中州にやって来て、モリオンが本当に鳥使いになれるのか、見定める手筈になっている。モリオンが本当の新入り鳥使いとなりって鳥使いの村に入れるか、最後の関門が待ち構えている。そしてその時、カーネリアが上手くモリオンを指導したかも見極められるのだ。

 騎乗服を着て自分の前に立ったモリオンをカーネリアはじっくり見詰め、騎乗服の着こなしを点点検する。
「さぁ、これでよし、と」
カーネリアはモリオンの騎乗服の着こなしに合格点を出し、モリオンがますます鳥使いらしくなっているのを感じていた。何度ジェダイドとの飛行を重ね、モリオンは緑の騎乗服姿が似合いだしていた。もう何度もカーネリアと共に、ベヌゥに乗って樹海周辺部を飛び回っているのだ。
 モリオンとベヌゥに乗って樹海を飛ぶたびに、カーネリアは飛行距離を伸ばし、モリオンとジェダイドが長距離の飛行に慣れるようにしていく。その間にカーネリアは、モリオンに鳥使いの仕事を指導するのも怠らなかった。樹海がもたらしてくれる産物の種類やその見つけ方、収集するときの注意などを教え、モリオンをより鳥使いらしくさせる。それはカーネリアとモリオンが町で行う、商売への備えでもあった。そして今、商売の準備が整ったカーネリア達は、樹海周辺部と隣接する町へ飛び立とうとしていた。身支度を済ませたカーネリアとモリオンは騎乗具を手に中州の家を出て、ベヌゥ達か待つ早朝の知識の塔の前の広場に向かう。
「ジェダイド! ブルージョン!」
広場でモリオンの家禽とうずくまっているベヌゥ達は、モリオンが呼びかけると低く短い声で挨拶をし、それに合わせて家禽達も一声鳴いた。
「よーし、お留守番を頼むわね」
モリオンは家禽達に反しかけながら、片手で家禽の頭を家禽達の塒に向け、家禽達を塒に向かわせた。家禽達はこれから三日間、中州で残される事になるのだが、鳥使いの村から人が来て面倒を見てくれるので、問題はない。家禽が塒に戻るとカーネリアとモリオンは、騎乗具をベヌゥ達に装着し、ベヌゥの背に飛び乗った。
「よぅーし、出発!」
騎乗具に着いた命綱を騎乗服のベルトにしっかり繋ぐと、カーネリアとモリオンはそれぞれのパートナーを飛び立たせる。モリオン初めての商売に向かう旅が、今始まった。
 空に飛び立つとカーネリアとモリオンは、パートナーのベヌゥを中州の上で大きく旋回させ、中州や知識の佐生に異常がないのを確かめると、樹海周辺部へとベヌウ達の翼を進めていった。ベヌゥでの飛行を続けながらカーネリアは、ブルージョンの背中から樹海の様子を監視する。樹海に異常がないかを確かめるのも、鳥使いの仕事だ。
 見たところ昼近くの樹海周辺部には、これと言った異常は無いし。いて言うならば山火事の後が、光の川近くで二、三か所見掛けたくらいだろう。川を使って移動する人々が起こしたものだろうが、いずれも小さなものだ。カーネリアは見慣れた樹海周辺部の風景に目をやりながら、ブルージョンを飛ばしていく。カーネリアにとっては何時もと変わらない飛行だが、モリオンにとっては、心躍る旅らしい。鬱蒼した樹海やその中を流れる光の川、時たま見られるとてつもなく大きな樹木や樹海に住む様々な動物達に、モリオンが心動かされているのが、カーネリアの意識に伝わってくる。モリオンとって樹海の旅は、まだ発見の連続なのだ。カーネリアとモリオンの飛行は、問題も無く順調に進んでいく。カーネリアか樹海の木の上に、あるものを見つけるまでは。
 数本の巨木が並んでいる中の一本に、ある異変を見つけたカーネリアは、巨木の枝にブルージョンを止まらせ、異変を調べ始める。ブルージョンに続いてジェダイドを枝に止まらせたモリオンも、カーネリアと一緒に異変を調べ出した。
「モリオン、見て」
カーネリアがモリオンに指示した異変は、カーネリア達が止まった木の枝と触れ合うほど近くにある、隣の木の枝にあった。半分壊された鳥の巣が、手に届くほどの距離にある。ニジノオ鳥の巣だろう。虹色の光沢のある羽根が、巣の中に残されていたるカーネリアとモリオンはベヌゥの背から降りると、壊れた巣を調べ始めた。ニジノオ鳥は子供ほどの大きさの鳥で、虹に似た色合いの美しい尾羽を持つ鳥で、今は子育ての季節のはずだった。
「ニジノオ鳥の巣ね。何者かに襲われたみたい。このところ樹海の生き物が何者かに襲われたらしい跡が、よく見つかっているのよ」
カーネリアは顔をしかめながら、自分の判断をモリオンに話した。嫌な話だが樹海周辺部では、樹海の生き物が何者かに襲われた後が、最近よく見つかっているのだ。おそらく何者かが、巣にいた雛を連れ去ったのだろう。巣には虹色の雛の産毛を落ちている。
「確かに雛は巣にいたようね。大人の羽に混じって、雛の産毛があるわ。何者かに、連れ去られたのもしれなにわね。卵の時のジェダイドのように」
モリオン話ながら、カーネリアは壊れたニジノオ鳥の巣を見つけたことを、イドで他の鳥使いに伝えた。するとすぐに、壊れた巣を調べに来るという返事が、鳥使いの一人からあった。
「鳥使い達に、この鳥の巣の事をイドで連絡したわ。さあ、いきましょう。他の鳥使いが調べにくるから」
後の事は仲間に任せ、カーネリアはモリオンを促してからブージョンに騎乗すると巨木を離れ、モリオンとジェダイドも後に続いた。
 その後の旅は、何事も無く順調に進んだ。壊れたニジノオ鳥の巣を見てからは、樹海の異常を見る事は無い。目的の町が近づくにつれ、ブルージョンの速度を上げる。後を追うモリオンが、苦労しているのを知りながら。カーネリアは目的地に急ぎながら、何故かジェイドの意識を感じていた。まだ薄っすらとしか感じられないジェイドの意識は、樹海周辺部と隣接する町に、怪しい人間がいるから注意しろと伝えている。やはりジェイドはどこかで、樹海周辺部の様子を見守っているらしい。樹海周辺部を見守りながら、カーネリア達を見ている。は無く出てきてくれたらいいのに……
[有難う、ジェイド]
カーネリアは薄れゆくジェイド意識に感謝した後、空にひときわ巨大な、背中に何かを背負ったベヌゥが飛ぶ姿を見つける。人を乗せない、荷運び専門の巨大ベヌゥ、ウルー・ベヌゥだ。鳥使い達が孵化させるベヌゥの卵の中には、ベヌゥの卵としてはあまりに大きすぎるので、親から見放された卵もある。鳥使い達はその大きな卵か孵化して生まれた大きな雛を、専門の鳥使いの元で運び専用に育て上げていた。ウルー・ベヌゥとなる雛は大き過ぎる身体で飛べる力を付ける為に、特殊な食べ物を与えられ、荷運び専門として訓練される。ウルー・ベヌゥはその大きさゆえに器用な飛行が出来ず、早くも飛べない。でも品物を運ぶ時には、円筒形の容器を背負って活躍してくれていた。
[これはキュプラ、ウルー・ベヌゥよ]
カーネリアは大き過ぎるベヌゥに驚くモリオンに。ウルー・ベヌゥのキュプラを紹介すると、ブージョンをキュプラに近付かせ、キュプラと翼を揃えて飛行させる。
「ホーイ、キュプラ」
カーネリアはキュプラを誘導しながらブルージョンを飛ばし、その後をベヌゥにしがみつきながら騎乗操作するモリオンとジェダイドが続く。目的の町フォルサは、もうすぐだった。
 フォルサは、樹海と大きな湖の間にある町だ。夕暮れが迫るフォルサの町の上空に到着すると、ベヌゥ達は長い緩やかな声で一声鳴き、鳥使いと親交のある商人に、到着を知らせる。ベヌゥの声で鳥使いの到着を知った、町のどこかにいる商人たちは、鳥使い達の準備が整うころを見計らって、鳥使い達の野営地にやって来る。カーネリア達は鳥使いの野営地になっている、湖から少し離れた場所にある叢に着地すると、さっそく野営の準備をした。まず叢にうずくまったブルージョンとジェダイドから騎乗具を外し、続いてキュプラの背中に乗り、キュプラが背負っていた円筒形の入れ物とそれを支える器具を外し、入れ物の中の荷物を取りだし、地面に置いた。
「さぁ、食事に行きなさい」
荷物を取り出し終えるとカーネリアは、ベヌゥ達を自由にし、食事に三羽のベヌゥが食指をしに飛び立っていくと、すぐに明日の商売と寝場所の準備を始める。カーネリアとモリオンはまず自分達のベヌゥの騎乗具から、自分達が持ってきた品物を取り出す。カーネリアの品物は樹海の老木の樹脂、モリオンの品物はアカリ花と呼ばれる薬草だ。二人は自分達の品物をそれぞれ布に包むと、紐で縛って持ち運べるようにした。これらは鳥使い達が個人で商売に出すもので、そこから得た利益は鳥使い達自身のものになる。自分達の荷物作ると今度は、今夜の寝場所作りに取り掛かる。キュプラが運んできた荷物の一つから野営用の天幕を取り出すと、荷物の横に手際よく天幕を張っていき、天幕を張り終わると中に荷物や騎乗具を運び込み、敷物の上にお茶を入れ、川魚の川で出来た水筒を置く。これで寝場所は完成だ。
 寝場所を整えるとカーネリアとモリオンは、騎乗服からゆったりとした上着とスカートに着替える。これは町の女性の服装だ。鳥使いから女商人になったカーネリアは天幕の中でゆっくりしながら、初めて商人になったモリオンに、明日の商売の手順を説明し始めた。