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 カーネリアは動揺を抑えながら静かに力強く、落ち着いた口調でモリオンに離しだした。
「私達鳥使いはね、樹海に住む人間なのよ。樹海の中に村を作り、そこから樹海中を飛び回っているのよ。ベヌゥの力を借りてね。それはあなたももう知っているわね」
「はい」
「鳥使いの暮らしが、この村の暮らしとまったく違うと言う事も、理解出来るね。」
「はい」
モリオンはカーネリアの質問に、真剣に答え、カーネリアはその様子をしっかりと見詰める。
「私、この雛と出会えて良かったと思っているのです。でも、それと私が樹海の村に行く事とは別の話しです」
モリオンは真剣な表情をして、カーネリアに訴えかける。
「私は、今までこの村から出たことがほとんどありません」
モリオンが訴えたのは、自分の将来が変えられる不安だ。カーネリアはモリオンの不安を感じながら、モリオンが真剣に訴えるのを黙って聞いていた。
「ここの生活以外の生活を、私はまったく知らないのです。こんな私が、鳥使いの村で何が出来ると言うのですか?」
モリオンが不安を感じるのも当然だ。なにしろ家禽を飼っているとはいえ鳥を嫌う村の少女が、突然見た事も無いような巨鳥と暮らすかも知れなくなったのだから。だがモリオンには、鳥使いの村に来るかどうか決断してもらわねばならない。カーネリアはモリオンに自分達の村をよく知って貰う為に、ある力をモリオンに使う事にした。
「モリオン、心配ならば私達の村を今ここで感じさせてあげるわ」
カーネリアはモリオンに微笑み掛けながら話すと、頭に鳥使いの村の風景を思い浮かべながら自分の意識をモリオンに向ける。これは鳥使い達が、仲間に自分が見た光景を伝える為に使う方法だ。モリオンにイドの力があるのなら、ちゃんと受け取ってもらえるはずだ。カーネリアはモリオンの意識により強くイドの力で働き掛け、自分の意識に浮かぶものがより強くモリオンの意識に伝わるようにした。そしてその試みは上手くいったようだ。カーネリアがモリオンの意識に送った鳥使いの村の光景を、モリオンが自分の意識で感じとっているの、がカーネリアの意識に伝わって来る。 見た事も無い村の様子を意識で感じ取った衝撃と一緒に。ベヌゥの雛を抱いたまま鳥使いの村の光景を感じたモリオンはただ茫然とするばかりで、緩んだ腕からベヌゥの雛が地面に落ち、おぼつかない足取りでベヌゥの卵を抱いていた雌の家禽に近寄って行くのにも気付かずにいる。
「驚かないで。貴方は私の意識と繋がっているのよ。私達の村をもっと詳しく知って貰う為にね。イドを使い慣れればこういう事も出きるの」
「カーネリア、あなたなのですか? こんなことをしているのは。村を感じさせるっていうのは、このことなのですか?」
モリオンの言葉に、カーネリアは静かに頷く。
「驚くことはないわ。これもイドの力一つよ、鳥使い同士はお互いの意識を繋ぎ合わせることができるの。意識が繋がるとお互いの感覚を共有するような感じになるのね」
「それが鳥使いの力なのですね」
「そうねぇ……鳥使いの力と言えば力ね」
「何故、こんなことが出来るのですか?」
「解らないわ。でもどうしたわけか、鳥使いにはこの力が備わっているの」
モリオンと話し合いながらも、カーネリアはイドの力を使い、鳥使いの村の様子を伝える。
「びっくりした?」
「私達鳥使いは、この能力をイドと呼んでいるわ。イドはね、鳥使いの意識と意識とを還元に繋いでいるものなの。わかる?」
カーネリアはこの特異な能力、イドの説明を続ける。
「私達が鳥使いをやっていられるのは、このイドの能力があるおかげだわ。イドを使って私達は樹海のあちこちにいる仲間とさまざまな情報をやり取りすることが出来るのよ。さっき、私があなたにやったように」
そしてこう続けたのだった。
「そしてあなたにも、何故かイドの力があるみたい。」
いきなり自分がイドの力をもっていると言われ、モリオンがさらに動揺するのが、カーネリアの意識に伝わる。動揺するのも当然だ。いきなり自分が見知らぬ土地で巨大な鳥と暮らさねばならないのだと言われ、さらに得体の知らない力を、自分がもっているのだともいわれたのだから。しかしカーネリアには、モリオンが鳥使いとしてやっていけると言う確信があった。
「それに私はね、貴方が鳥使いとしてやっていける能力を持っていると確信しているの。何故だか知らないけど」
カーネリアは自分の正直な気持ちをモリオンに伝え、それに対して、モリオンからは率直な質問がかえって来た。
「あなた達の一族でない私に、何故あなた達特有の能力があるのですか?」
「解からない。私達以外にイドの能力ある人間がいるなんて、村の記録には無いの」
これ以上、答えようが無かった。しかし少しばかりの静寂の後、カーネリアは思いもよらぬ言葉を口にしたのだった。
「モリオン、この謎を解くのが彼方に課せられた役目かも知れないわね」
何故そんな事を言ったのかは解らない。ただモリオンを見ていて、感じた事がそのままでてしまったのだ。
「私の役目?」
モリオンが聞き返してくる。はたしてこの鳥を嫌う村の少女が解き明かす謎とは何なのだろうか? 考える間もなく次の言葉が、カーネリアの口から飛び出した。 
「私達鳥使いと、彼方達との繋がりを見つけ出せたら解ける謎ね。多分、彼方なら解ける……いや、貴方だからこそ解ける謎なのかもしれない」
これは自分が言っているのではない。銀色の雛の傍らにいる茶色い髪の少女が伝わって来るものが言わせているのだ。そうカーネリアが確信した時、突然大きくて鋭い鳴き声が、凄まじい羽音と共に鳥小屋の外から轟いてきた。ヤミガラスの大群の声だ。その不気味な鳴き声を耳にして鳥小屋の床から立ち上がったカーネリアの意識に、鳴き声の主の姿が浮かんだ。
 黒い羽毛に覆われ、目を赤く光らせた鳥の大群……ヤミガラスと呼ばれるこの鳥はこの世界では小さな肉食の鳥なのだが、時々大規模な群れを作って他の生物を襲い、大きな猛禽をも倒してしまう危険な鳥として知られていた。危険な鳥の恐ろしい鳴き声に、小屋にいるマダラウズラ達は恐怖に震え、しきりに小さな低い声で鳴き続けている。そしてマダラウズラ達の前では、ベヌゥの雛の傍らにいるモリオンが、くぎ付けらなったように立ち尽くしていた。早くこの厄介な猛禽を追い払わないと……だがその前に、ブルージョンと意識を繋ぎ合わせるのが先だ。
[ブルージョン!]
カーネリアが意識を小屋の外にいるはずのブルージョンに向けると、ブルージヨンがヤミガラスの大群を見て興奮しているのが伝わって来る。それと同時に、ベヌゥの雛や小屋にいる家禽達が感じている恐怖もカーネリアの意識に伝わって来た。早くこのいまいましい猛禽を追い払わないと……。すぐに行動を起こす必要がある。カーネリアはオリビンと顔を見合わせて頷き合うと立ち上がり、パートナーと共にヤミガラスを追い払う為、立ち上がってオリビンと一緒に鳥小屋の出入り口に向かう。
「モリオン、後を頼むね」
カーネリアはモリオンにベヌゥの雛や小屋の家禽達を託し、オリビンと共に鳥小屋の外に飛び出した。
 鳥小屋の外に出ると、夥しい数のヤミガラス達が大きな黒い影を作り、空に浮かぶピティスを覆い尽くそうとしていた。ヤミガラスが作る影はそれ自体が一つの生き物に懐かの様に夜空を蠢き、不気味な鳴き声を上げる。しかもその大きな影はイナの村人達の家々が立ち並ぶ場所へと延びている。このままでは、イナの村が大騒ぎになるだろうし、下手をしたら村人が襲われるかもしれない。だが今ここでベヌゥ達とヤミガラスに対峙するのには躊躇いがある。ベヌゥや鳥使い知らない村人達に姿を見られたら、イナの村はさらに混乱するだろう。しかしカーネリア達の躊躇も、ヤミガラスの群れに突っ込もうとする二羽のベヌゥの出現で、吹き飛んでしまった。ヤミガラスの声に興奮したベヌゥ達がヤミガラスと対峙しにきたのだ。それも当然だ。ベヌゥ達にとってヤミガラスは、時には自分達の雛をも襲う存在なのだから。
 興奮に目を光らせながら、ベヌゥ達はヤミガラスの群れに突っ込んで行く。だが怒りに我を忘れるような状態にはなっていないようだ。カーネリアとオリビンはそれぞれパートナーのベヌゥを呼び、鳥小屋の前に降りさせるとベヌゥの背に飛び乗る。
「いくよ、ブルージョン」
カーネリアはパートナーのベヌゥに声を掛けると、ヤミガラスの群れ目掛けて飛び立った。
 カーネリア乗せたブルージョンは空に昇ると、鋭い鳴き声と共にヤミガラスの群れに突っ込み、猛禽達が作る黒い影を銀色のナイフとなって切り裂いていく。しかしヤミガラスの群れは、幾つかの群れに引き裂かれても、再び一つの群れ戻りベヌゥと鳥使いに反撃しようとしていた。ヤミガラス達は徐々に一塊になって行き、バラバラにされる前よりも小さいがより深い闇を帯びた影になり、オリビンが騎乗するベヌゥに覆い被さろうとしていた。
「あぶない!」
カーネリアはすぐさまブルージョンをオリビンのパートナーに急接近させ、ヤミガラスに群れに挑む。カーネリアを乗せたブルージョンはヤミガラスの群れのすぐ傍を滑空すると、その大きな翼で猛禽の大群を切り裂いていく。黒い猛禽達はベヌゥの翼が作り出す風圧で蹴散らされ、時には巨鳥の千葉差や身体にぶつかり跳ね飛ばされるものの、仲間を蹴散らされたヤミガラス達は怒りを募らせ、凶暴になってベヌゥ達に襲いかかって来る。さらに樹海の方角から次々とやって来たヤミガラス達が群れに加わり、ベヌゥと鳥使い達を襲う。
 矢の様にベヌゥ達にと飛び掛かって来る黒い猛禽は、ベヌゥの羽毛に潜り込むと鋭い嘴でその身体を突き、ベヌゥ達は苦痛の鳴き声を上げた。そして猛禽達の攻撃を受けたベヌゥ達は頭の冠毛を逆立て、赤い羽毛の裏で頭部を炎の色に染めると、目も赤く光らせて猛禽への怒りを現し、反撃に出る。翼を大きく羽ばたかせると急上昇してヤミガラス達を振り飛ばし、さらに高度を下げると猛禽の群れを蹴散らした。
「ブルージョン!」
ベヌゥに騎乗するカーネリアは、騎乗具にしがみついて急な上昇と降下に耐えながら、ブルージョンを落ちつかせようとする。これ以上ベヌゥを怒りの形相のままにしていては危険だ。
「落ち着いて、ブルージョン」
カーネリアはパートナーに声を掛け続けながら、落ち着くようにイドの力でベヌゥの意識に働き掛ける。しかしブルージョンはなかなか落ち着かない。怒りの形相のままヤミガラスの群れを追廻し続け、ぶつかって来る黒い猛禽を爪や嘴、翼を使って叩き落とす。ブルージョンから少し離れた空の上では、オリビンのパートナー、クロサイトも怒りの形相で襲って来るヤミガラスを蹴散らしている。だが二羽のベヌゥがいくら蹴散らしても、ヤミガラスは次から次へとやって来てはベヌゥと鳥使いに襲いかかる。いつまでも突くかと思われる猛禽との戦い……しかし夜空に三つの銀色の光が見えた時、情勢が変わった。カーネリアの仲間を乗せた三羽のベヌゥが、ブルージョン達の加勢に来てくれたのだ。
 後から来た三羽のベヌゥ達は、すぐさまヤミガラスの群れを引き裂き始める。頼もしい助っ人だ。しかも鳥使いの一人は、カーネリアが誰よりも信頼している鳥使いだ。少し前に、カーネリアの伴侶に成る約束をした男性鳥使いのクロッシユだ。
[クロッシュ、来てくれたのね]
信頼し、愛し合ってもいる鳥使いのクロッシュに、カーネリアはイドを使って呼び掛ける。
[あぁ、村に帰るとすぐに、仲間と君達の後を追って来たのさ。君の事が心配だからね。そしたらヤミガラスの群れに、出くわしたってわけ]
クロッシュはイドでカーネリアと対話しながら、猛禽に立ち向かパートナーに手にした操縦綱で指示を出す。クロッシュが騎乗するベヌゥは他の二羽のベヌゥと連携してヤミガラスを散り散りにし、それを見たブルージョンとクロサイトも怒りの形相を解き、後から来たベヌゥ達の攻撃に加わった。ヤミガラス達は流石に五羽のベヌゥを相手にするのは無理だと感じたのだろう。一つの群を作っていたヤミガラス達は再び群れを分裂させ、さらに散り散りになると樹海の方角へと飛んで行き、やがてイナの夜空から姿を消して行った。
「ああ、良かったぁ……」
空が静かになるとカーネリアはブルージョンを、鳥小屋の上空を旋回するクロッシュのベヌゥに近付け、二羽ならんで飛ぶようにさせる。クロッシュや他の鳥使い達に、モリオンや盗まれたベヌゥの卵から還った雛の事を知らせる為だ。カーネリアがイドでモリオン達の情報を他の鳥使い達に送ると、鳥使いの一族でない少女がベヌゥのパートナーになった事に、鳥使い達が大変驚いているのが伝わって来た。しかし今は詳しく説明している時間はなさそうだ。騒ぎを聞きつけたらしいイナの人々の声が、鳥小屋に近付いて来るのが聞こえて来る。そして鳥小屋の前には、夜空を飛ぶベヌゥを見詰めるモリオンがいた。このままでは、モリオンが密かにベヌゥの雛を孵したのが村人達に知れ渡ってしまい、モリオンもベヌゥの雛も無事ではいられないだろう。モリオンとベヌゥの雛を救う為には、モリオンを鳥使いにする以外に、方法は無いかもしれない。カーネリアはある決意を持って、ブルージョンを取り小屋に近付ける。村人達がベヌゥに向けて投げる石をもろともせずに、カーネリアがブルージョンを鳥小屋の上空に近付けると、モリオンの意識に自分の考えをイドで伝える。
[モリオン、鳥使いになりたいのなら、早く雛を連れて森に行きなさい。そして森に入ったら、森の中の川に行きなさい]
カーネリアは、モリオンの決意に掛けていた。生まれた村を出て、鳥使いになると言う決意に。そして自分の考えをモリオンに伝え終ると、ブルージョンを上昇させて、モリオンを見守りながら鳥小屋を離れる。モリオンはカーネリアの伝えた事をちゃんと理解したようだ。何かを出し入れする為に作られたような小さな入口から鳥小屋に入ると、すぐにベヌゥの雛と雛を孵した家禽の雌を連れて来るのが、小さくなりながら見える。そしてその後起こった事は、カーネリアが想像もしていなかった事だ。鳥小屋から家禽か一斉に飛び出して小屋に近付く村人達を慌てさせると、モリオンは一際大きな家禽の背中に飛び乗り、村の外へと走り去る。モリオンは、鳥使いになる決心をしたのだ。
「さぁ、村に帰りましょう」
モリオンが村外れの果樹の林に入って行くのを見たカーネリアは、今起こっている事に茫然としている仲間にイドで呼び掛け、鳥使いの村への帰途に就いた。
 カーネリア達鳥使いを乗せたベヌゥは、イナの村を離れ樹海に続く森入ると、森の川を遡る様にして樹海に向かって行く。川の上空を飛ぶベヌゥの背中に騎乗する鳥使い達は、見な押し黙ったまま操作綱を握り、ベヌゥ達を急がせていた。カーネリアやオリビンがイドで他の鳥使い達に伝えられた情報を、早く鳥使いの村の長老達に直接伝えたかったのだ。しかしモリオンと盗まれた卵から生まれた雛の事は、イドを通じて全ての鳥使い達に知れ渡っていた。
 鳥使い達はみんな、樹海の外にある見知らぬ村の少女がベヌゥのパートナーになった事に、動揺を隠せないでいた。樹海の外の、今までベヌゥを見た事が無いような少女が、はたして樹海の鳥使いになれるだろうか?  鳥使い達の不安がイドを通じてカーネリアの意識に伝わって来る。またモリオンが鳥使いになるのを認めたカーネリアへの非難も少なからず感じられた。
[村に着いたら、すぐ長老クリスタに報告しなければならないぞ。最終的にあの少女とベヌゥの雛をどうするかを決めるのは、長老達だからな]
クロッシュがイドの力でカーネリアに話し掛けてくる。
[それは理解しているつもりよ。でもこうするしかなかったのよ。あの娘とベヌゥの雛を助けるには。彼女が雛を連れて村を出なければ、雛も彼女もどうなっていたか解らないわ。鳥嫌いの村人達が鳥小屋に押しかけて来たのだから]
そう、あの状況では、モリオンと雛を村の外に出すしかなかったのだ。それはクロッシュも他の鳥使い達も理解しているのだろう。その後誰もカーネリアに問い掛ける事無く、鳥使いの村への飛行を続けたのだった。
カーネリア達が深緑にある鳥使いの村がある山の上空に到着すると、ベヌゥ達の離着陸場に白髪の女性がカーネリア達を待っているのが見えた。村の長老達を取りまとめている老女、クリスタだ。一刻でも早くカーネリアから、モリオンと盗まれた卵から生まれた雛の話しを聞きたいのだろう。カーネリアはブルージョンをゆっくりと離着陸場に着地させてベヌゥの背中から降り、他の鳥使い達も着陸してベヌゥから降りたのを確認すると、と足早にクリスタの元に駆け寄った。
「お帰りなさい、カーネリア。残念ながら、ジェイドは見付からなかったようね。でもきっと生きているはず。そう信じましょう」
鳥使いの村を率いる老女は近寄って挨拶するカーネリアにねぎらいの言葉を掛けると、すぐ本題に入った。
「疲れていると思うけれど、盗まれた卵に何があったのかを、簡単でいいから話して頂戴」
「はい、クリスタ。私とオリビンは、丘陵地帯にあるイナの村で盗まれた卵を見付けたのです。ジェイドがイナの村の少女に預けて行ったのです。ジェイドは少女に卵を預けた後、再び卵泥棒を追って行き、行方知れずになったようです」
カーネリアはクリスタや鳥使い達を前に、イナの村で家禽に抱かれているベヌゥの卵を見付けてから起こった事と、鳥使いになる決心をしたモリオンが村を出て樹海と隣接する森に入った事を伝えた。大方の事はイドを通じて長老達にも伝わっているのだが、改めて真実だと確信してもらう為に、カーネリアは直接長老達に話して聞かせたのだった。
「もう少しで、ヤミガラスの襲来で混乱したイナの村人達が、ベヌゥの雛のいる小屋に押し入るところだったのです。だからあの娘と雛を、イナから連れ出すしかなかったのです。そしイナを出てしまえば、あの娘……モリオンには鳥使いになるしか道はないのです」
カーネリアが真剣に話すのを聞き終ると、クリスタは再びカーネリアに言葉を掛ける。
「有難うカーネリア、もういいから宿舎に戻って休みなさい。私はこれから他の長老達とこの事について話し合います。明日の朝、朝の日課が終ったら会議の間にいらっしゃい。その時までには、結論を出しておきますからね。私達が出した結論を、少女と会ったら伝えなさい」
「はい、わかりました」
カーネリアとの話しを終えたクリスタは、離着陸場の後の崖に開いた洞窟の入り口に入る。そしてカーネリアもその後から、他の鳥使い達一緒に洞窟へと入って行く。ベヌゥや鳥使いの休憩場所にもなっている洞窟の中に入るとカーネリアはブルージョンから騎乗具を外し、自分に割り当てられた壁のフックに掛け、布で簡単にベヌゥの身体を拭いてやった。
「有難うブルージョン。もう自由にしていいわ」
世話を終えたカーネリアが声を掛けながらブルージョンが離れると、ブルージョンは一声鳴いてから洞窟の外へと向かい、空へと飛び立つ。おそらく腹ごしらえをしてから、ねぐらに入るのだろう。そう思った途端、カーネリアは自分が空腹なのに気付く。おまけにひどく疲れている。まずは食堂で腹ごしらえしよう。カーネリアはまだベヌゥの世話をしている鳥使い達を残し、洞窟の奥の階段と通路を通って食堂に入り、休息を取った。