一煎目と見た目はそんなに変わらない。そっと口をつけると、今回はしょっぱさがなくなり苦味のほうが強くなったと感じる。
「こっちのほうがすっきりしてる気がする」
ただ、しょせん酔っ払いの味覚である。高尚な舌など持ち合わせていない。味わいが変わったんじゃないかと思うけれど、果たしてそれが正解かどうかは分からない。
しかも正解を知っているであろう拓実は「ふうん」と相槌を打つだけで、それ以上なにも言ってこなかった。
代わりに私が質問をする。
「ところで、かぶせ茶ってあんまり聞いたことがないんだけれど、普通の緑茶と違うの?」
「煎茶とか玉露とかほうじ茶とか、日本茶全般の総称を緑茶っていうんだよ。かぶせ茶もその一種。この辺でもさかんに栽培されてる」
緑茶の定義すらよく分かっていなかった私に、拓実は説明してくれる。
「へえ。伊勢のお茶って有名なの?」
またひと口お茶を含みながら尋ねると、拓実は思案するように腕組みをした。
「あんまり知られてねえけど、三重のお茶の生産量って、静岡、鹿児島に次いで全国三位らしい」
「え、そうなんだ」
京都とかのほうがお茶のイメージがあるから、三重が三位とはちょっと意外かも。
「地形とか気候が生産に適してるんだってさ。他のお茶に比べて味が濃いから、三煎目までおいしく飲めるんだよ」
「なるほどなあ」
拓実の豊富な知識に感心しつつ、湯呑みのお茶を飲み干す。
三煎目は確か、ポットから急須に直接お湯を注いでいいって言っていたっけ。
小皿に盛られていた塩昆布をひとつまみ食べながら、教えられた通り急須にお湯を入れ、湯呑みにお茶を注いだ。