「でもたまには旅行とか、行きたいね。温泉とかどう?」

「すごく魅力的だけど、温泉だとすずが楽しくないかも」

「じゃあいちご狩りとか?」

「それならすずは大喜びだよ」

いちごをモリモリ食べるすずを想像して、私はクスクスと笑った。
でもよく考えたら柴原さんとすずと三人で旅行だなんて現実的ではない。姉を差し置いてそんなことできない。あくまでも私は柴原さんとルームシェアしているだけなのだから。

「有紗のことなんだけど」

「え?」

私の心でも読まれたのかと思って驚いて顔を上げる。

「元気そうに見えるけど、やっぱりもう長くないらしい。モルヒネも飲み始めているみたいだ」

「モルヒネ?」

「痛みを緩和する薬だよ。そうとう痛いらしい」

「そうなんだ」

姉の病状の話に私は気を引き締めた。
私が知らないことを柴原さんは知っている。これが、妹と夫という立場の違いなのだろう。姉は私と家族なのではなく、柴原さんと家族なのだ。そして私は柴原さんとは他人。

「俺は最期まで有紗を見届けたいと思っている。すずも、できる限り会わせてやりたい。美咲はどう思ってる?」

「私は……」

わからない。
私はどうすべきなのか、答えは見えない。