土曜日、柴原さんの運転する車で私たちは病院へ向かった。
すずは終始テンション高めだ。
雨も降っていないのに先日買ったばかりのお気に入りの長靴を履いて、“ママに見せる”とはりきっている。

「すず、病院では静かにするんだよ」

「はーい!」

すずは相変わらず元気よく手を挙げた。
平日の診察外来とは違ってしんと静まり返った院内に、私たちの靴音が響く。すれ違う人と軽く会釈をしてエレベーターに乗り込んだ。

「ねえね、だっこして。だっこー」

エレベーターを降りるとすずが立ち止まって抱っこと手を広げた。走り回られるよりはいいかと、私はすずを抱っこして病室まで歩く。さりげなく柴原さんが私のカバンを持ってくれた。

ちょうど朝の回診が終わったようで、私たちは看護師さんに挨拶をしてから姉のベッドがあるカーテンを開けた。

「有紗、調子はどう?」

姉は私たちを見るとゆっくりと体を起こす。その動作はとてもゆっくりだ。けれど、まだ自力で起き上がれることに私は密かに安堵した。

「まあまあかな。すず」

姉がすずを呼ぶ。
その声はとてつもなく優しく、そして母親だった。

「すず、ママだよ」

すずは私に抱っこされたまま、胸に顔を押し付けながらチラリとママを見た。そしてまた顔を押し付けて隠れるような仕草をする。

「どうしたの、すず?」

私がすずを下ろそうとするも、すずは嫌がって私にしがみついたままだ。

「すずってば。ほら、下りて」

「やだ」

ぎゅうぎゅうと締め付けられ、簡単にはほどけない。子供の力は意外と強い。

「大丈夫よ、美咲。人見知りでもしてるのかも」

「でもママなのに」

「半年以上も会ってないもの。二歳なんてこんなものよ。でも元気そうでよかった。美咲が頑張ってくれてるからだね。よく懐いてる。安心したわ」

こんな状態なのに、姉は楽しそうに笑った。