「ふふふ」

突然姉が笑い出し、私はまたもやムッとする。

「何が可笑しいの?」

「ううん、ごめん。私を怒ってくれるのは美咲だけだから、嬉しいの」

意味不明だ。
訳がわからなくて眉間にシワを寄せると、姉は私の手を取り優しくにぎった。

「私は美咲が羨ましいのよ」

「何言ってるの?」

姉は思い出すようにゆっくりと話す。

「お母さんが再婚して私に妹ができたときは本当に嬉しかった。特にお父さんが大喜びしてたわ。でもそれからしばらくしてお父さんの態度がおかしくなった。私はお父さんの実の娘じゃないし、思春期にも差し掛かっていたせいもあったんでしょうね。お父さんは私を腫れ物でも触るように接したの。一切怒らない。まるで他人行儀よ」

子供の頃の思い出はあまりいいものはない。思い出せば思い出すほど、姉だけが褒められ私は怒られる。そんな光景しか思い出されない。それなのに美咲が羨ましいとは、まったくもって意味がわからない。

「私はお姉ちゃんが羨ましかった。怒られるのはいつも私。親の愛情はお姉ちゃんにばかりいってたじゃない」

「そう見えてしまったのかもね。実際愛情なんてないわ。ただ甘やかされただけ」

「そんなことない。お姉ちゃんはたくさん褒めてもらったじゃない。私は親に褒めてもらったことなんてない。誰も私のことなんて褒めてくれなかった……」

そこまで言ってハタと気付いた。

誰も褒めてくれないんじゃない。
私を褒めてくれるのはいつも姉だ。

姉だけは私を褒めてくれていた。
テストでいい点を取ったときもいい大学に入ったときも、大企業に就職したときも、姉は「美咲はすごいね!」って毎回褒めてくれていた。

いつも私のことを見てくれていたのは姉だった。

それから、もうひとつ気付いた。
気付いてしまった。

柴原さんがすずを褒めるとき、いつもモヤモヤした感情が生まれていた。
なぜだろうとずっと思っていた。
これは嫉妬だ。
私はすずに嫉妬していたんだ。

私もすずのように、柴原さんに褒められたかった。
褒めてもらいたかったんだ。