姉は私に”離婚して好きな人と結婚する”と宣言した。だからすずと柴原さんは私にあげるんだと、軽い調子で言った。
そんな姉が癌で入院だという。

すずを見捨てたからバチが当たったに違いない。そんなやつになぜ会わなくてはならないのだ。今さらすずの母親面されても困る。

「お姉ちゃんの恋人はどうしてるんですか？」

ムカムカとした気持ちが抑えられない私は、ぶっきらぼうに聞く。牧内さんは眉間にシワを寄せて怪訝な顔をした。

「恋人？そんなのいないわ」

「捨てられたんです？ざまあないですね。すずを捨てるようなやつ、捨てられて当然ですよね」

感情が抑えきれず吐き捨てるように言うと、牧内さんは一旦頭を抱えフルフルと首を横に振った。

「美咲さん、有紗に何を言われたか知らないけど、有紗はずっとすずちゃんを大事に育ててた。それだけは本当よ」

「だけど私に押し付けたじゃないですか」

「頼る人が美咲さんしかいなかった。ううん、安心してすずちゃんを任せられる人が、美咲さんだったのよ」

「ありえないです」

私はバッサリと切り捨てた。
牧内さんの言うことは姉を擁護するものばかりだ。今まで姉の勝手な行動に振り回されてきた私には怒りしかわかない。

「とにかく、一刻も早く有紗に会って。今ならまだ、調子がよければ話すことができるから。早くしないと本当にもう……」

そこまで言って牧内さんは目頭を拭った。

牧内さんは自分の名刺の裏に、姉の入院先の病院と病室を書いて私に渡してくれた。

受け取ってはみたものの、どうしていいかわからなかった。