「はーもう、美咲でいいです。美咲って呼んでくださいよ」

私は諦めたようにため息をつく。
確かにいつまでも橋本さんじゃよくないとは思っていた。
保育園でもそう呼ばれた日には目も当てられない。
と思って言ったのに。

「じゃあ美咲」

「そこは”さん”付けないのかよ!」

あっけらかんと名前を呼び捨てにしてくる柴原さんに、私は盛大にツッコミを入れた。

「え、あ、ごめん。そうかー、難しいな」

「……柴原さんって天然ですか?」

「いやいや、美咲のほうが天然でしょ?」

「はあ?」

食って掛かろうとしたところ、すずが私の袖を引っ張る。

「ねえねもケンカだめだねぇ」

「ほんとだねぇ」

「だめだねぇ」

何故か柴原さんもすずの口真似をして二人で責めてくるので、私はキレた。

「うるさい!早く食べろ!」

ダイニングテーブルをバン!と叩いてから、ドスドスと足音を立てながら洗濯物干しに戻った。

くだらないことでキレてしまったことに少し後悔しつつも、先程のやりとりを思い出すと妙に笑えてくる。

なんだこれ。
柴原さんはもっと冷たい印象だったのに、もうそんな感じは一切なくなっている。
言動が意味不明だしまったくつかめない。

それにすずも、言葉が増えてしっかりしゃべるようになってきた。
子供の成長は早いな。