「これ、ねえねのごはん?すずもたべたい」

「じゃあこっちにおいで」

すずを抱っこしようとすると、柴原さんが先にひょいと抱き上げ、器用に靴を脱がせてベッドの上へのせてくれた。夕食ののった可動式テーブルを挟んで対面に座ったすずは、食べ物に興味津々だ。

さすがにここで一人で食べさせると散らかしそうなので、デザート用のスプーンでご飯をすくってすずの口に持っていく。
すずは大口を開けて、雛のようにモグモグと食べた。

「これもたべたい」

別のおかずを指差し要求してくる。
コンビニでおにぎりを買ってきたくせにそちらには一切目もくれず、病院食を根こそぎ食べる気満々だ。私のご飯がなくなりそう。

「やっぱり上手いね」

「え?」

ベッド脇に置かれている椅子に座った柴原さんが、こちらを見ながらボソリと呟いた。

「ご飯のあげかた。俺は何もかもダメだった。マニュアル通りやったはずだけど、上手くいかなかったよ」

疲れた顔がますます憂いを帯びていく。
すごく頑張ったけど思い通りにはいかなかった、そんな悔しさが滲み出ていた。でもそれは、すごくよくわかる。わかりすぎる。

「そんなの、私も同じですよ 」

突然すずの親になった。
準備も経験も覚悟も何もない。
毎日生かすために必死だった。
目の前のことをこなすのみ。

自分の子供じゃないのに。
望んでもいないのに。

それなのに突然親になった。