柴原さんはくしゃりと髪を掻き上げると、ばつが悪そうに視線を外す。

「悪かったよ、君に押しつけて。俺の子供。自覚はあるんだ」

そう言って、すずを見やる。
その目はあのオフィスで見た冷徹非情なものではなく見たこともないほど優しい眼差しで、あまりの衝撃に私は何も言えずただ柴原さんを見つめるだけだ。

柴原さんは深いため息をつくと、意を決したかのようにポツリポツリと話してくれる。

「恥ずかしい話だけど、君のお姉さんに酔わされて記憶がないまま一夜を過ごしてしまったらしい。その時の子なんだ」

……え、ちょっと待って。お姉ちゃんったら何てことをしているんだ。
衝撃の事実と姉の破天荒さにとたんに頭が痛くなる。

「嘘だと思ったけどDNA鑑定もしたから間違いない。だけど記憶がなさすぎてずっと受け入れられなかった」

柴原さんは寝ているすずの頭に手を伸ばし、優しく髪を撫でた。

「寝顔が俺の子供の頃とそっくりだよ」

納得しているのか開き直っているのかわからないため息まじりの声色で呟くと、柴原さんは私の方に向き直った。

「何の関係もない君が受け入れてくれてるのに、俺が受け入れないわけにいかないよな。それくらいの責任はあるよ」

低く落ち着いた声は、私の胸に深く響いた。