「どうぞ」

「……失礼します」

応接用のソファに座るよう促され、私は柴原さんと対峙した。
インターネット上に載っていた写真よりも幾分か若く見える。通った鼻筋に形の良い口。高級そうなスーツが長い手足を際立たせる。そして意思の強そうな綺麗な瞳。
ある記事ではイケメン敏腕社長だなんて揶揄されていたけれど、なんとなく分かる気がする。

「それで、目的は金?」

「……は?」

予想だにしない言葉に、私は目を見開く。

「いくらほしいの?」

「いや、お金じゃなくて。あなた、すずの父親ですよね?」

私の言葉に、柴原さんは顔をしかめた。
まるで触れてほしくないかのようだ。

「私は有紗の妹の橋本美咲と言います。姉がすずを置いて行方不明になってしまったんです。姉と連絡取れませんか?」

柴原さんは面倒くさそうなため息をついた。
妻が行方不明だと言うのにまったく興味がなさそうだ。

「有紗とはずっと連絡を取っていないからわからないな」

「でも旦那さんですよね?」

「肩書きはね。有紗がどうしてもというから戸籍をあげた。ただそれだけの関係だよ」

「すずの父親でしょ?」

「養育費が足りないのならもう少し多くしよう」

「そういうことじゃなくて!」

噛み合わない会話にふつふつと怒りがわいてくる。お金を求めて来た訳じゃない。なのにこの男はお金の話しかしない。すずのことを気にも留めない。

お金で何でも解決できるとでも思っているのだろうか。