「柴原さんお昼どうする?」

「んー?どこかで食べてく?」

帰りがけにどこかでランチもいいなと思ったけれど、優柔不断な私にはお店は決められない。かといって、家で作るにもメニューが思いつかない。
うむむと頭を悩ませていると、ふいに柴原さんが言う。

「ところでさ、美咲は俺のことをいつまで柴原さんって呼ぶわけ?」

「えっ?」

「自分は名前で呼べって言ったくせに俺のことは名前で呼んでくれないの?」

「え、だって、……今更何て呼べば」

「圭佑でいいんじゃない?」

あっけらかんと言う柴原さんに、私はぐっと言葉に詰まった。

実は男の人を下の名前で呼んだことがない。
いや、正確に言うとたぶん保育園とか小学生のときは呼んでたんだろうけど、大人になってからは皆無だ。

「……け、けいすけ……さん」

どもりながら言うと圭佑さんは両手で顔を覆った。

「……なんか照れる」

「いやいや、こっちが照れるんですけど!何その乙女みたいな反応!」

二人して照れながら、結局そのままマンションまで帰ってきてしまった。