「やっぱりね。そうだろうと思ったわ。で、何の用かしら?」



「わたし、お母さんが嫌いなの」



彼女は自分の母親にそう告げた。歯切れのいい言い方だった。



「昔は好きだったけど。今は、もう好きじゃないの」



まどかは、母親を目から1秒たりともそらすことなく言った。



「だって、お母さんはわたしのこと育てなきゃよかったって思ってるんでしょ? 一緒にいたくないんだよね?」



まどかの母親の目は、すこしピクッと動いた。



「わたしも一緒の気持ち。お母さんと一緒に、いたくないの」



わずかに震え出す、まどかの声。
俺の出番だ。



「僕、まどかさんをもらっていきます。もう、まどかさんはあなたの娘ではありません。僕の大切な存在です」



「ごめんなさい、お母さん。わたし、二度とあなたのところへは戻りません」



ガラス玉のような瞳ではなかった。
まるで、湖の中に小さな星でもあるような瞳だった。


_____そう、彼女の瞳は少しばかりぬれていたのだ。