そんな日々を送りながら、不良生活も謳歌(おうか)する。
「んだ、てめぇ! 何見てんだ!」
「喧嘩屋・鉄だよ、この傷で分かんだろ」
「てっ……!チッ、やってらんねぇよ」
 左腕の傷跡を見せたら、全員、同じような捨て台詞を吐いてどっかに行ってしまう。軟弱者だ。夢魔の方がよっぽど骨がある。人型の夢魔と殴り合ってるときは、最近で一番血が(たぎ)った。ため息が出てしまう。
 ただ、面白そうな噂を聞いた。うちの和良比(わらび)高校の近くにある、紫野(むらさきの)高校を治めてる番長が、和良比高校を潰しにくるらしい。紫野高校はお世辞にも治安が良いとは言えない、底辺高校だ。全員で攻めてくるとは思えないが、それでも五十人近くはくるだろうな。それに引き換え、うちの高校はまだ治安が良い方だ。不良なんて一学年に十人いるかいないかだ。今の俺は魔力を覚えたことで、人間なんて相手にならない。百人近く来ても勝てる自信がある。じゃあ、なんでこの噂で興奮しているかというと内容が内容だったからだ。
「紫野の番長、あなたと同じらしいから、気を付けてね。その人も魔力を使うみたいなの。でも、あたしみたいに教えてあげる人がいないせいで、そのことに気付けてない。夢魔の美味しいご飯になってるの。普通、現実に出てくる夢魔なんて、月に数匹いればいい方なんだけど、明らかに異常な数が発生してる。で、協会が詳細を調査してくれたらしいんだけど、どうやら紫野高校の緑沢(みどりざわ) (みやび)ってやつが原因だって」
 結城から聞いて、にやけてしまった。結城が俺のことを心配してくれてるってのもあるが、良いライバルがいるじゃねぇか、って思うと笑えてくる。戦ったとしても、負けるとは到底思えない。無意識ってことは、発揮できる力はせいぜい五十パーセントが関の山だ。俺は訓練を積んだおかげで百パーセント発揮できる。実戦の中で編み出した技として、魔力を防御に利用することもできる。もう人間じゃ相手にならないんだろうなぁと思う心と、緑沢なら俺と対等に喧嘩できるんじゃないかと思う心がせめぎ合っている。