昼休み、堂馬はふて寝を決め込んでいた。
 体調はすこぶるいい。昨日の疲れが嘘のように吹き飛んでいる。ただ左手首が涼しいだけだ。

 「おいおい堂馬くんよ。どうしたんだよらしくない。ふてくされた顔はいつもだけど寝込んじまうとは。」

 クラスメートの上村左右(うえむらさゆう)の軽口に顔を上げもせず、左手をひらひらさせて答える。

「あれ、お前、腕時計はどうしたんだよ?買った時無駄にテンション高かったじゃん」

「壊れた」

「壊れたぁ!?Gショック壊れるなんて初めて聞いたぞ。トラックにでも轢かれたのか?」

 「生憎異世界転生は果たしてねえよ」

 「じゃあ呪われてんじゃねえのお前」

 「呪いなんぞ存在しない。あるのは物理的衝撃だけだ」

 そうだ、呪いなどあるはずがない。

 「でも剣術とかやってると変なもんとか呼び寄せたりするかも知れないだろ?なんか妖刀とか。村正みたいな?」

 「村正は伊勢は桑名の刀工集団で、安いわりにいい刀を作るから流行ったやつだ。数が多いもんだからそこの刀が徳川家の連中を切りまくって、おかげで妖刀呼ばわりされているだけだ」

 「え、そうなんだ」

 「ネットで調べりゃ大体分かるぞ。反徳川の奴らにはむしろ守り刀で真田も維新志士も村正を欲しがった。呪いなんてないさ。あるのは人と歴史だけだ」

「今ちょっとかっこいいこと言おうとしたろ」

「余計なこと言うな。毛根に枯れ葉剤撒くぞ」

「怖いこと言うなよ!あ、そうだ明日カラオケ行かね?それ言おうとしたんだった」

「朝のバイトの後ならいいぞ」

「それじゃあ5時集合な。通り魔には気い付けろよ」

「そうするよ。本当に」

 二度と悲劇は繰り返さない。そう決意して、気がつけば放課後だった。