「いや、全部嘘です。ごめんなさい」

樹々の昨夜の行動を考えたら、嘘なんてつけない。

最後に着信があったのは、日付の変わる深夜十二時前。
その時間まで私を『探していた』とか、『心配してくれた』って思うと限界だ。

こんな私にも一応『心』はある。

「なんかあったんでしょ、あのカフェ会で。聞きたいけど、言いたくないなら言わなくていい。けどそれは気分が悪くなるくらい辛いこと?」

私は無意識に樹々から目をそらす。
そういえばテレビで『人は都合が悪くなると目を反らす生き物だ』って言っていたっけ。

でもそんなことより、今の私には答える勇気はない。

「ごめん」

樹々を信頼していないわけじゃない。
ただ自分自身が怖かった。

あの頃の闇に飲み込まれそうで、また逃げてしまいそう。

一方で樹々は優しく笑ってくれる。

「そう。じゃあいいや」

それ以上は樹々は何も言わなかった。
怒る素振りも全く見せずに、『困った友達も持ったものだ』と言うように笑顔を貫く樹々。

だけど、今の私にはその笑顔が辛く感じる。

「怒らないの?」

愚問だったのか、樹々から笑顔が消える。

「はぁ?なんで怒るのさ。怒っても意味ないじゃん。あたしが勝手に心配しているだけだし」

その時一瞬だけ、私は『友達とは何だろう』と考えた。

カフェ会に誘ってくれたのは樹々だ。
きっと私のために誘ってくれたのだろう。

『新しい自分を見つけてほしい』と、樹々は私に思ったのかもしれない。

そしてカフェ会から飛び出した私を探してくれた。
日が変わるまで、ずっと私を心配してくれた。

今朝も私の事を心配してくれた。

無事だと理解したら、樹々は怒らずに笑ってくれた。
どうしてここまで心配してくれているのかは知らないけど、私の事をすごく心配してくれたと言う事は、痛いほど分かった。

血の繋がっていない他人なのに、どうしてここまでしてくれるんだろうと私は疑問に思う。

そんな事を考えていたら迷惑をかけた時とはまた別に、申し訳無い気持ちが私の中から溢れてきた。

だから素直にもう一度謝る。

「ごめなさい」

無意識に流れた私の涙。
そして心の中でも私は樹々に何度も謝っていた。

そんな私を見ても、樹々は相変わらず笑っていた。