実は毎日黒板や小緑の机に落書きをして瑠璃は帰っていた。
酷い罵声のメッセージに、生きていると言うことを否定されるような辛い言葉。

他にも小緑の机の上に花瓶を置かれたり、その机にも酷い落書きが書いてあったと言うのに、小緑は全く気付かなかった。

まるで最初からそんな落書きなんてなかったかのように・・・・・。

どうして小緑は今まで気付かなかったのか。
それは同じクラスの瑞季の存在があったからだった。

放課後。
瑠璃が帰った誰もいない教室で、瑞季は瑠璃が書いた黒板の悪口を全て消していた。

『これを見たら小緑が可笑しくなってしまう』って瑞季はそう感じたのだろう。
小さなその手で、瑞季は毎日学校が終わってから遅くまで学校に残って、小緑へ送られる罵声の言葉を消していた。

だから小緑は『瑞季のお陰で瑠璃のメッセージに気づかなかった』だけだった。
完全ないじめだというのに、瑞季が小緑を守っていた。

『小緑がそれ以上辛い思いをしてほしくない』と、瑞季は見えない所で小緑庇っていたのだ。

まるで二年前の金子麦という少年のように。

きっと小緑は驚いただろう。
ずっと一人で戦っていたのに、若槻瑞季という一人の少年が側で支えていた事に・・・。

そしてこれも金子麦と同じだった。
自分のいじめを誰かがかばってくれたから、『その誰かがいじめられてしまった』という現実も同じだった。

『自分を守ろうとしてくれた瑞季がいじめられている』っていう現実に・・・・。

だから小緑は瑠璃に怒った。
どうやって瑠璃が瑞季の行動に気付いたのか分からないけど、瑠璃は小緑を守る瑞季にも攻撃し始めた。

小緑同様に、瑠璃は瑞季もいじめるようになった。

そんな瑠璃を、今度は小緑が許さなかった。
同時に小緑は心を痛めた。

麦の時のように『自分のせいでまた関係ない人を巻き込んでしまった』って、酷く自分を責めたらしい。
紗季の胸でずっと泣いていたらしい・・・・。

小緑は家では理不尽な両親の態度に悩まされて、学校ではいじめられている。

それはもう『生きることを否定されているような扱い』と同じだと思った。

中学生一年生の女の子には、辛すぎる現実だ・・・・。