そのいじめの発端は、小学五年生の出来事から始まったらしい。

小緑は運動会のリレーで派手に転んでしまって、クラスの優勝を逃した。そ
して小緑自身は酷いいじめを受けるようになった。

黒板に酷い悪口を並べられて、小緑のいじめが始まった。

そんな中、小緑に手を差し出してくれたのは友達の金子麦(カネコ ムギ)という少年だった。
彼は何度も小緑を庇い、小緑を守ってくれた。

だけどある日彼にある異変が起きた。

いじめの対象は小緑から麦に移っていた。
麦は小緑が受けたのと全く同じいじめを受けていた。

そして麦は現実に耐えられなくて転校した。

その少年の転校に酷く悲しんだ少女がいた。

現在小緑と同様謹慎中である、大村瑠璃(オオムラ ルリ)という少女だった。
大好きな麦を失ったことにより彼女は狂い、同じ親友だった小緑に理不尽に攻撃するようになった。

攻撃する理由としては『小緑がしっかりしていなかったから』だとか。
『小緑がクラス代表リレーで優勝していれば、こんなことにならなかった』と瑠璃は言っていた。

小緑はただの被害者だというのに。

意味もなく攻撃を受ける小緑も瑠璃に対して嫌気が差して、二人は友達の縁を切った。

でも瑠璃は小緑への攻撃を止めなかった。

それどころか酷くなる一方だった。
エスカレートする一方だった。

二年経った今も、小緑は瑠璃にいじめられている・・・・・。

でもここで小緑の姉の紗季はあることに気がついた。

被害者である小緑は、これを『いじめ』だと思わなかった。

ただの瑠璃の嫌がらせ。
『嫌だ』という思いはあるが、小緑は何とも思わなかったようだった。

『幼稚だ』と、『何を考えているのだ?』と、『僕を攻撃しても意味ないのに』と思い続けていたようだった。
『飽きたら辞めるだろう』と思った小緑は『辛い』とは一切思わず、二年間も瑠璃と学校生活を送っていたらしい。

そんな小緑に対して、あたしも違和感に感じた時がある。
それは、小緑と瑞季が一緒に帰っていた時の小緑が言った言葉。

『さきねぇは確かに心も性格も荒んでますけど、僕はまともですよ。何一つ不自由ない生活ですし。学校生活も悪くないですし』

いじめを経験したあたしは不思議に思った。
『どうしてそんな強気な言葉が出てくるんだろう』って。

『とてもいじめられいる人間の台詞じゃない』って思った。
何より嘘付いているようには見えなかった。

だってこの前の小緑、いつもの可愛らしい笑顔だったし。
作り笑顔で、あんな満面の笑みは絶対に作れない。

だけど、小緑がそう思うのには理由があった。
小緑が辛いと思わなかった理由があった。

瑠璃の小緑へ嫌がらせは、小緑が見ている現実だけではなかったから。
直接的な嫌がらせや靴の盗難。

教室の外に机を出されるなど。
小緑は自分への攻撃はそれだけだと思っていたのに、そうじゃなかったから。

一人の少年が小緑を守り続けていたから・・・・・。