「そういえば大石さん。私、アルバム曲の『蝶の舞』が大好きなんです。あれ、先生が作曲されたのですか？」

城崎さんの言葉、その曲は私もよく知っている。

だって春茶先生の代表曲だから。
春茶先生がテレビで紹介されたときはいつもその曲が流れる。

実際その曲でコンクールでも優勝したし。

春茶先生は答える。

「いえ、あれは私ではありません。く・・・宮崎紅さんって言う凄い方が作ってくれました」

春茶先生の一言は私を振り向かせる。

一方の栗原先生は何故だか私の様子を確認していた。
なんでだろう？

二人の会話は続く。

「へぇ、その宮崎紅って人はすごい人なんですか？」

「そうですね。あまりにも凄すぎて当時は宮崎先生のチケットは中々手に入らなかったですからね。でも本人は全くコンクールとかコンサートには興味がなくて。彼女の気分でコンサートが突然キャンセルになったりすることもありましたけど」

その春茶先生の声に、城崎さんの表情が歪んだ。
まるで『なんていい加減な人なんだ』と言っているような呆れた表情。

宮崎紅（ミヤザキ　コウ）。

その名前は私もよく知っている。
何年か前に活躍した有名なピアニスト。

そして現在は生きているのか死んでいるのかわからない人。

そういえば父が『飛行機墜落事件で亡くなった』って言っていたっけ。
まあその話事態が嘘か本当か分からないけど。

「へぇ、そんな人すごい人だったのですね。何だか茜ちゃんみたい」

「そうですよね。何だか茜ちゃんを教えていると宮崎さんを思い出します。何故だか音色も似ていますし、流石・・・」

その後の春茶先生の言葉は分からない。
まるで『それ以上は言うな』と言うように、栗原先生からストップが掛かった。

「ハル、しゃべりすぎ」

そして春茶先生は我に返ったのか慌てた表情で謝っていた。

「あっ、ごめんなさい！何だか私、昔から熱中すると止まらないって言うか」

「春茶先生？」

疑問を感じた私。それは紗季や城崎さんも同じだった。
まるで触れてはいけない爆弾のように、二人に疑問を感じた。

でもその疑問をそれ以上考えるなと言うように、栗原先生の声が聞こえてくる。