「合格だって。やったじゃない!」
そう言って私の手を取り喜ぶ母とはうらはらに、私は目の前の通知書の意味が掴めず、ただ母をじっと見つめるしかなかった。
事の発端は3歳の七五三だった。
母は子供の初めての七五三に随分張り切っていたと後から聞いたが、確かに着物は子供が着るには勿体無いほど上品なものを着せてもらった。子供らしさを出すために柄や色味はあどけなさを演出するものを選んでもらった。お祝い事には髪飾りに生花を、という母のこだわりもあり、白く愛らしいかすみ草を髪に添えてもらった。
写真スタジオで記念写真を何パターンも撮り終えた後、ふとカメラマンの人がこう言ったそうだ。
「それにしても可愛いですね。仕事柄、色んなお子さんを見てきましたが、こんなにチャーミングな子はそういませんよ」
「あら、ありがとうございます。私が張り切りすぎて、娘をうんと着飾ってやったものですから」
「いやいや、この子は着飾らなくてもうんと可愛いんでしょうね。こんなに可愛いんですから、芸能界でも入れてあげたらどうです?」
「ああ、それはいいね。きっと人気が出ますよ」
店員さんも一緒になって母にそう語りかけた。
カメラマンさんはお世辞だったかもしれないし、最後の提案は冗談だったかもしれない。店員さんも、社交辞令に乗っかっただけかもしれない。
それでも母はそこまで言われて、すっかりその気になってしまったらしい。元々、生まれた時から度々周囲から娘を褒める言葉を何度もかけてもらったらしく、極めつけのこの提案にはっとしたそうだ。
とりあえず送るだけでも、と試しに書類を送ってみたら一次合格。二次の面接やカメラテストも、あっさり合格してしまった。
そこで、冒頭の喜びである。
「この前お外にお出かけして、沢山の大人たちとお話したでしょう?そしたらね、芸能事務所に入れるって」
「それは、どんなところ?たのしい?」
「うーん、それは自分次第よ。テレビに出たり、演技をしたり、お歌を歌ったり。かんちゃんが頑張れば、そういうことが出来るのよ。かんちゃんは、やりたい?やりたくない?」