そう考えて、私は自分の世界が狭いのだと感じた。視野も狭い、世界も狭い。もっと色んなものを見て、色んなことを経験して、色んなことを勉強したい。
小鳥遊栞菜だけでなく、髙梨環奈も成長したい。そうすれば、きっとどこかで演技も成長出来るかもしれない。
「そ、っか。だからこんなに勉強してたんだ。気付かなくてごめん」
「謝らないで。今は仕事も控えてもらってるから勉強の時間も結構取れてるんだ。」
夢も、選ぶ道も、人それぞれだ。
私は自分で決めた道に、誠実でありたい。
「……じゃあ、環奈自身の夢は?」
「……そ、それは」
髙梨環奈としても、夢はある。けれど、それを言葉にするのは少々難しい。
私たちの関係を知っているある先輩に言われた。甘える彼女役を演じてると思って頑張ってみたらどうかと。素直になれないなら、その時だけ“髙梨環奈”が演じる。そう思って、自分の素直な気持ちをちゃんと伝える。
それを聞いた時、目から鱗だった。それは自分を飾るのとは違う。素直になれない自分が素直になりたい自分を演じるように考える。
今、それを実行する時ではないか。いつも素直に思ったことを口にしてくれる奏世に、たまには私も素直にならなきゃいけないんじゃないか。
素直な私を演じてみる。甘えるようなことを本当は言いたい私を、演じてみる。
「か、奏世とずっと一緒にいたいの」
「……え?」
「奏世とこれからもこうしてくっついていたいし、奏世と色んなところにいってみたいし、奏世の隣にいるのは私がいい」
恥ずかしい、恥ずかしい。顔が熱い。
でも、ちょっとだけ嬉しい。
ここまで素直になれた、自分が嬉しい。
「え、ちょっと環奈……可愛いこと急に言うの、反則」
奏世が私を正面から抱きしめる。いつもよりちょっと強くて、いつもよりちょっと温かい奏世のハグ。
こうやってハグするのも、奏世とがいい。奏世とじゃなきゃ嫌だ。
そう言ったらきっと、奏世は今度こそ真っ赤になってしまうだろうか?
【バージンテープ】
いかなる信号も全く記録されていないテープのこと。
「これからのまっさらな未来、二人に幸あれ」
-fin-