こんなに相手を知り尽くしたカップル、この世の中にいないかもしれない。でも、それでもお互い受け入れて笑いあえるならいいのかもしれない。
今日はいつも以上に、奏世が彼氏で良かったと思える。こんな私を受け入れてくれる、自慢の彼氏だ。
「環奈、俺はどんな環奈も好きだから不安にならないで」
急に奏世は笑うのをやめ、真剣な顔で私の頭をもう一度撫でてくれた。
そんな奏世に今日は素直になれる。こくりと頷くと、奏世の顔がゆっくりと近付いてきた。
え、これって。え、え、まって。
急な出来事に心が付いてこれる筈がなく、焦っている間にも奏世はゆっくり近付いてくる。頭に乗っていた手は、いつの間にか後頭部に回され、力が少し加わる。
覚悟を決めてぎゅっと目を瞑ると、触れるだけの柔らかな感触が唇に伝った。刹那、世界は音がなくなった。
かと思えば今度は長い長いキス。ドキドキが唇を伝ってしまうほどの、キス。
「……キスシーンで俺より先に他の男にキスなんてさせるかよ」
「……え、知ってたの?」
「さっき言ったでしょ、栞菜の情報は全部チェックしてるって」
今度出演が決まったのは、小さな映画。全国の映画館で上映するか心配な程の、少し小さな規模。漫画が原作の映画で、原作では主人公の友人役の私は主人公の片想いする男の子にキスをされるという設定だった。
だから、脚本をまだ見ていなくても想定できる出来事。そこまで、奏世は知っていた。そして、妬いてくれた。
「役でも演技でも、本当は嫌だから」
そう言って今度は深いキス。
頭も心もクラクラして麻痺しそうな私を解放する気がない奏世に、日が暮れるまで捕まってしまうのだった。





【Silent】
音なしで撮影すること、またはその作品のこと。


「予告もなく、サイレントは訪れた」