「お待たせしました、お先にたっぷり三種のチーズお好み焼きです。お客様ご自身で焼きますか、もしくはスタッフがお焼きしましょうか?」
「えっと……」
「自分たちで焼きます」
「かしこまりました。鉄板がお熱くなってきますので、お気を付けください。作り方はそちらの案内に書いておりますので」
私が迷っていると、奏世が代わりに答えてくれた。奏世は自分の方が二つも年下なことを気にしているようだが、私からしたら奏世の方がよっぽど大人だ。
「環奈、ワイワイしながら食べたいんでしょ?」
「……うん!」
奏世が生地を混ぜてくれたので、私が焼くことになった。
実は、私は手先が不器用。上手くひっくりかえせるか不安だったけれど、楽しければいいやと思える。
「……よし、蓋したら2分間そのまま蒸すんだって」
「ふわふわになりそうだね。待ちきれない!」
チーズの匂いが立ち込める。むわりとした空気は、今日は何だか嫌じゃない。
砂時計の砂が落ちるまで、今日学校で会った出来事とか、家で飼っている犬が部屋を荒らしてきたとか、何てことない日々をお互い語り合う。
話に夢中になって砂が落ち切ったことに慌てて気付いて、すぐにひっくり返す。
「……よいしょ!」
「おおっすごい!見事に半分崩れた!」
「ちょっと!じゃあ崩れた方は奏世ね!」
何だかこういうの、凄く楽しい。
お洒落なところにディナーへ行かなくても、着飾らなくても。断然こっちの方が楽しい。
崩れたところを写真に収める奏世を怒ったり、もんじゃ焼きを必要以上に焦がしちゃって焦ったり、結局奏世は食べたりずにサイドメニューを幾つも追加したり。
絶対、こっちの方が楽しい。楽しい。楽しい。
「楽しいね」
ほら、あまりに楽しいから素直に言える。
そう言えば奏世も「楽しいね」と口元にソースを付けながらにかっと笑ったので、私は仕方なくペーパーで口元を拭いてあげた。
【フレームアウト】
画面内の被写体が画面外に外れること。
「今は、仕事モードの奏世も栞菜もフレームアウト」