「それにしても、急にどうしたの?」
「あっそうそう。明日の夜、空いてる?」
「空いてるよ?どうかしたの?」
「俺、明日の夜ご飯なくてさ。良かったらどこか一緒に食べに行こ。」
こ、これはもしかしてデートに入る?
例えデートに入らないとしても、二人きりで食事に行くのは初めてだ。
やっぱり奏世のタイミングの絶妙さは怖い。
「い、いいよ……?」
声が上ずってしまったけれど、「仕方ないから付き合ってあげる」だなんて強がった過去の私よりは、少しだけ成長したのかもしれない。





「ごめんね、ムードのあるお店連れてこれなくて」
翌日、そう言って奏世が連れていってくれたのは奏世の地元のお好み焼き屋さんだった。馴染みのお店らしく、ここならあまり噂にならないと図ったらしい。
正直、ムードなんて気にしない。他の女の子なら、イタリアンやフレンチをねだるのかもしれないけれど、私は飾ることがあまり好きじゃない。演技でなら幾らでもできるからこそ、素の自分は飾るのを嫌がる。
それに、
「私、お好み焼き大好きなの」
「そうなの?無理して言ってない?」
「私が奏世相手に気を遣うわけないじゃない。本当に好きなの」
「へえ、他には何好きなの?」
「何だろう……焼肉?人とワイワイしながら食べるのが好きだから。ご飯は楽しく食べたいでしょ?」
確かに、奏世相手には見栄を張ろうと思わない。気を遣おうとも思わない。
素の自分を出してもいいかもしれない、もっと素直になっていいかもしれない、と思うようになってからだ。
「じゃ、今度は焼肉行こうね」
奏世が嬉しそうにそう言うから、何だか恥ずかしくなってメニュー表に目を移した。
二人であれこれとメニューを指差し、結局お互いの好きなものを一個ずつ頼んで切り分けることになった。チーズのたっぷり入ったお好み焼きと、明太子と餅の入ったもんじゃ焼き、それからオム焼きそば。
「そんなに食べれるの?」と聞けば、「俺、育ち盛りの男子高校生だよ?」と言われてしまった。これじゃ足りないかもなあ、とも言っていたから恐らく追加注文でもするだろう。男子高校生の食欲は計り知れない。
ここのお店は各テーブルに鉄板が付いており、調理済みのものが運ばれてくるのではなく、テーブルで焼くようだ。