今の話を全て理解は出来ていない。正直、まだ頭は混乱しているし信じ切れていないところもある。
けれど、奏世の目を見れば分かる。冷たくあしらっていたのはもう昔。今はその瞳を見てあしらうなんてこと、出来る筈がない。
それならば、次は私の本当の気持ちを伝える番。
私が意を決したのが分かったのか、奏世が真剣な眼差しで瞳を射抜いてくる。でも、この前とは違う。私も今なら真っ直ぐ奏世を見つめ返せる。
「私は奏世に伝えたいことがみっつある。私が散々ライバル視していたのはもう分かっていると思うし、私こそ奏世をずっと追いかけ続けていたのもバレているでしょう?だから、それ以外のことを3つ伝えたい」
「分かった。聞かせて」
「……そのいち」
小さく吐き出した声が震えていることに、どうか気付きませんように。
「そのいち。パパラッチのせいで印象が下がって仕事に影響するのが嫌だから、恋人はしばらくいりません。そのに。仕事が忙しいから恋愛に時間を割く余裕はありません」
「……かんな」
「そのさん。でも、今、奏世のせいで心の余裕もありません……!」
これが私の本音。
昔から奏世を追いかけ、見ていた。そうしているうちに、演技だけでなく考えや性格にも惹かれていった。じゃなきゃ、あんなに演技に惹かれるわけがなかった。
演じている役は自分とは違う人だけど、その役に自分の要素は必ず反映される。
奏世は前にインタビューで言っていた。「役になりきるというより、自分しか演じられないものにしたい」と。そう言った通り、奏世の演じた役はどこかに奏世らしさが必ず光っていた。
そんな奏世に口説かれて、落ちないわけがなかった。ライバルだから、と壁を作って見て見ぬふりをしたのは私。
「もう分かるでしょう?私が奏世を好きだって」
私は、カチンコの音が鳴ればその役に「なる」。頭のてっぺんからつま先まで、その役になる。
奏世は、その役をいかに自分らしさを交えて「演じる」かをよく考えている。
100パーセントその役になりきるのではなく、見ている人に自分しか演じられないと思わせるように演じる。
どちらがいいかは分からないけど、あたしは奏世の演じるキャラが好きだ。
そして、気が付けば演じる奏世自身にも惹かれた。
だって、「役者の奏世」も「ただの男の子の奏世」も、私の追いかけ続けた奏世には変わりないのだから。
そう、それは私のたった一つの恋。
素直になれずに、遠回りばかりしてしまった恋。
『ワンラブ!』