「奏世……!」
「これが俺のひとつめの答え」
開口一番。
何で私がこのテレビを見ていると確信できたのだろう。
「ふたつめは、直接話そうか」
ピンポーン。チャイムが知らせるその訪問客に、もう私は驚くことすらできない。
きっと円花が教えたんでしょう?だって、気を利かせたように円花は自室へこもってしまった。
私だってもう確信は持てた。そのまま電話を切り、玄関の扉を開ける。
「何もかも、分かっているくせに」
憎たらしいほど、私の心に容赦なく入り込んでくる。
隙を見せたらお終い、気持ちが揺れ動いたらお終い。最後、奏世の甘い言葉に抗えなくなる。
「テレビで栞菜を見たとき、凄くキラキラして見えたんだ。同じ世界に入って、同じ景色を見たい。その想いでこの世界に入った」
そして、役者・牧丘奏世が生まれた。
最初から私を目標にし、演技力を磨いていった。でも、幼い奏世には「あんな風にキラキラしたい」という想いだけで、それ以上の細かいことはまだ分からなかった。とにかく、あんな風に輝きたいからと演技の道を着実に進んでいった。
「俺が中学に上がったばかりの時、映画で共演したのは覚えてるよね?」
「うん、でもあの時は役としても殆ど絡まなかったじゃない」
「あの時、自分の目で初めて栞菜の演技を見て、衝撃を受けたんだ。カットのかかる前後の表情の変わり方とか、息遣い、一挙一動。そんな時、俺は丁度声変わりの時期で声が上手く出なくて。演技がし辛くて少し悩んでた」
「……あ」
「そんな時、栞菜が俺に声をかけてくれた」
――声、どうしたの?
――え?あ、声変わりで出し辛くて……
――……これ舐めたら?のど飴なんて、声変わりには効き目ないかもしれないけど。
――あ、ありがとう。
――自分を、大切にね。
そういえば、心当たりがある。
奏世の演技に注目していたが、声の出し方がテレビで普段見るときと何か違うと気付いた。
「でも、あれはたまたま私が不良娘役で声荒げる役だったから、喉を痛めないように持っていただけだよ?」
「それでも、俺はそれで環奈自身に惹かれた」
それが俺のふたつめの答え。