この番組は30分枠で、毎回俳優やアーティストなど、様々なジャンルの方をゲストとして呼び、トークを繰り広げるというもの。
「――今日のゲストは俳優の牧丘奏世さんです」
「――こんにちは、牧丘です!」
テレビに映る奏世は元の黒髪に戻っていた。学校もあるから、すぐに髪色を戻したのだろうか。
奏世のこれまでの芸歴をパネルで紹介し、ゲスト出演でのドラマの話題から話は始まった。
撮影現場での共演者との絡みや、ドラマの役どころ。同時に画面にはそのドラマの予告映像が紹介として流れる。
そういえば、つい先日『光待つモーメント』の映画化とキャストの発表がされたばかりだ。情報が解禁されたなら、もうテレビでその話をしても大丈夫だ。ということは、映画の話もするのだろうか。
「――牧丘さんは、尊敬する俳優さんや憧れる俳優さんはいますか?」
ドラマの話が終わると、次はお決まりの質問に移った。
思えば、定番な質問ながら奏世の尊敬する俳優は聞いたことがない。
奏世はそれこそベテラン俳優から新人や子役まで、幅広く共演している。奏世のあの演技力を培うための目標なる人、それは私にとって聞き逃すことのできない質問だ。
奏世はそこで、とんでもなく意表をつく、そして信じがたいことを言いだした。
「――俺はいつだって、小鳥遊栞菜さんを追いかけています。役者を目指したきっかけでもあるんです」
「――小鳥遊さんは、子役ブームの火付け役とも言われる人気子役でしたよね。その小鳥遊さんとは、今度の映画で共演を果たしたんですよね。実際に共演してみて、小鳥遊栞菜さんを一言で表すと?」
「――アトラクティブ。一挙一動が勉強になります」
映画の話をするならば、私の名前も出るかもしれない。奏世が第三者に私のことを話すところは今まで見たことも聞いたこともないので、そうしたらこれが初めてになる。
なのにまさか、奏世が私を追いかけているなんてこと。だって、私がずっと奏世の背中を見ていた筈。
ありえない、まさか。おかしい。
もう番組のトークは耳に入らない。頭が真っ白で、口を開いてみても「まさか」の3文字ばかりが空(くう)に浮かぶ。
「お姉ちゃん!」
「えっ、あ、何?」
「電話、鳴ってるよ」
勿論、こんなタイミングに電話をかけてくる人物なんて一人しかいない。