「小鳥遊栞菜さん、牧丘奏世さん、入りまーす!」
「おはようございます」
「本日はよろしくお願いします」
奏世と共にスタジオ入りする。他の共演者は別のスタジオで撮っていたり、そもそも別の日に撮影する予定の方もいるらしい。一緒のスタジオで一緒に撮るのは、主役の私たちだけだった。
真っ白い背景に、星のような形をする照明が幾つもぶら下がっている。光に溶け込むかのように、その合間に入る。
それぞれの指定された位置に立つと、私の瞳と奏世の瞳にアイライトが当てられた。
「小鳥遊さんは目の前の照明を掬うように、右手を差し出して!……そうそう。牧丘くんは左斜め前の照明と右斜め前の照明にそれぞれ手を差し出して!……はい、目線はこっちでーす!」
カメラマンの指示に次から次へと対応する。いつもよりライトが多い分、頬が熱くなっていくのが分かる。それでも顔に出すわけにはいかず、指示通りの表情を浮かべる。
何十枚も撮り終えた次は、二人で向かい合い、二人の間に吊るされた照明に手をかざすショット。その次は、前後に距離を置いた状態で背中合わせになり、前ピンの状態でのショット。二人の場所を入れ替えて同じ構図でのショット。
それが終われば、一人ずつイメージショット。
その日は結局、撮影に丸一日かかった。撮影が終わるころには二人ともぐったり。火照った顔を冷やし、スタッフさんから渡されたドリンクで水分補給。
「お疲れ、栞菜」
「奏世もお疲れ様」
ついでに差し入れのゼリーを食べて、糖分補給も。
今日は静止画だったが、来週には映画のクランクインがやってくる。
世界で一番負けたくないライバルと、W主演。やっぱり気負いはするけれど、ここまで来たらいっそ楽しんでしまおうと思うことにした。
願った奏世との仕事。それは想像以上に早く、そして想像以上に大きな仕事として叶ったわけだけど、またとないチャンスだ。奏世を魅了するほどの演技をしよう。今まで積み重ねてきた努力と想いに賭けよう。
「私にとって奏世は光だけど、私も奏世にとっての光になりたい」
その想いを抱いて、撮影に全力をぶつけよう。