否、時間は関係ないかもしれない。私が奏世を「ライバル」としたあの日から、奏世との距離を無意識のうちに作っていたのかもしれない。だから、「ライバルなのに」一定以上近付かれ踏み込まれると、どう接すればいいのか分からなくなる。
奏世のことが分からないのは、もしかしたら自分で奏世との間に壁を作ってしまっているから?
「心配させてごめんなさい。近いうちに自分で何とかします」
「……栞菜がそう言うなら何も言わないけど、一人で我慢しているなら怒るからね」
「大丈夫です。ありがとう、古坂さん」
映画のクランクインも控えている。どっちにしろ、このままじゃいけない。
まだ頭の中は全然整理がついていないけれど、何とかしなくちゃ。


  ▽


事務所に着き、空いているテレビの前で昨晩放送されたドラマの最終回を二人で鑑賞した。
あんなに妹に対して冷徹だった兄が、最終回じゃまるで別人で。その理由は一話から最終話までを通して様々なところに散らばっていたと思う。
それは仲間との出会いだったり、喧嘩だったり、恋愛だったり。小さな出来事が集まった結果、主人公を大きく変えた。
「――仕方ねえな、妹にケーキでも買って帰るか」
最終回のこの台詞、共演時では絶対に考えられなかった。ドラマの中で妹の存在はあまりなかったので、まさか最終回にこんな台詞が待っていたなんて。
と、次の瞬間
「ほら、お前食えよ」
頭の上に重みを感じ、慌てて手で押さえながら振り向くと、そこには何と塩谷さんが立っていた。頭の上から箱のようなものを下ろすと、その中には本当にケーキが入っている。
もう一度塩谷さんに目をやると、半分塩谷さんで半分兄のような表情だったので、私はすかさず反応した。
「え、頭打った?女はめんどくせえ、じゃなかったっけ?」
「めんどくせえけど気分だよ、気分。ありがたく食え」
「兄と妹」の会話を交わし、思わず吹き出した。
「まさか本当にケーキを買ってきてくださるなんて!ありがとうございます!」
「栞菜ちゃんは本当に面白いね。ドラマ、ラストまで見てくれてありがとう。ショートケーキ、食べられる?」
「はい、大好きです!」
早速いただくことにして、事務所の給湯室にあったお皿にケーキを移す。生クリームのボリュームと苺の大きさから、ちょっとお高いケーキな気がして少しだけ気が引けたが、折角塩谷さんにいただいたから遠慮なく食べることにした。
塩谷さんはマネージャー待ちらしく、斜め前のソファに腰掛け、スケジュールのチェックをしている。