最悪な空気で幕を閉じたデートから数週間。
あれから避けるように電車を変え、奏世とは顔を合わせていない。
映画のクランクインは迫ってきているのに。
このままじゃいけないとは分かっている。私が奏世の気持ちを踏みにじったのも分かっている。それでも未だに、何度考えても奏世のことが分からないのだ。奏世は何を思い、何を考え、私にあんなことを言うのか。あれは演技なのか、はたまた本音なのか。
でも、咄嗟に出た私の言葉は本当だった。
演技か本心か分からないこの世界で、普通に恋愛することは困難だ。いっそ奏世が下手な役者さんなら見抜けるだろう。生憎、悔しいほどに演技は完璧だ。
気分は憂鬱でも、やるべきことはやらなくてはならない。役作りのため、肌を絶対に焼かないように日焼け止めを全身に塗りたくってから外出する。
今日は事務所に行って、塩谷さんのドラマの最終回を古坂さんと観る予定だ。
さて、そろそろ向かわないと。
「いってきます」
「いってらっしゃい、気を付けるのよ」
荷物を持って玄関を開けると、何故かそこには
「おはよ、栞菜」
古坂さんが車で待っていた。
「え、おはようございます。何で迎えに……」
「何となく気分が乗ったのよ。ほら、乗った乗った!栞菜の好きなジュースバーでジュース買ってきてあるから」
「わ!古坂さんありがとうございます!」
助手席に乗り込み、渡された紙袋の中を見ると、苺バナナジュースとお菓子が入っていた。
ここのお店の生絞りジュースはとっても美味しい。美容と健康に気を付けているので果物は進んで摂取するのだが、それがなくてもここのは美味しい。
「元気出た?」
不意に古坂さんにそう言われ、やっぱり気付かれていたんだなと思った。
例え私が女優だろうが、私を近くで見てくれている人は演技か本当かなんてバレてしまう。
虚と実が交差するこの世界で、何が正しく何が嘘なのか。それはもしかしたら、自分が信じるか信じないかということなのかもしれない。
でも、それじゃ私は奏世のことを信じていないということになる?
奏世のことは、私が一方的に追いかけ続けて、テレビや雑誌での言動を把握しているけれど。奏世自身と私が関わった日々はまだ決して多くない。