幸いにも周りの一般客からは私たちが芸能人だと気付かれていない。遊園地なんて楽しい場所だと仕事のことも忘れられる。今日のデートらしい服装も、私を普通の女の子に感じさせてくれた。だからか、いつもより少しだけ素直になれた。
お化け屋敷に入った時も、素直に奏世に腕を絡ませられた。外に出たら速攻で腕を離してしまったけど。
「やっぱり遊園地の締めは観覧車だよね」
「え?それは絶対無理」
観覧車?カップルのために作られたようなあの乗り物に奏世と二人で?
否、流石に無理よ。
「ん、かんなって高いところ苦手?」
「そういうわけじゃ……」
流石に恥ずかしい。あんな密室に奏世と二人きりでしょう?
今日の私たちは周りから見たらカップルに見えるかもしれないけれど、これはただの演技。お仕事のための役作り。
奏世と恋人同士なら乗れるかもしれないけれど、私たちは仕事仲間だ。
「なら乗ろう」
「ちょっと待って、奏世!」
奏世に半ば強引に観覧車に乗せられた。
一周15分。思ったより長い。
私は抵抗することを諦め、仕方なく腰掛けた。心臓が今までにないくらい鼓動を打っているのが自分でも分かって、手に汗が滲む。
奏世は私の向かい側に座る、……と思ったのだが。
「ちょっと!何で隣に座るのよ!」
「大丈夫だって。傾かないし」
「そういう問題じゃなくって!」
ぴったり私の横に座って外を眺める奏世を見て、今までで一番恨めしく思った。
ほら、やっぱり奏世のペースに巻き込まれる。
奏世から顔を逸らし、反対側の窓から景色を眺める。
まるで小さな模型を見ているように、人は小さく建物も随分と低く見える。あの中に混ざって私たちも恋人のように振る舞っていたと思うと、恥ずかしさに顔が熱くなる。
遊園地は楽しくて、そう思うと時間はあっという間に過ぎる筈なのに、今日は何故か1日が長く感じる。この観覧車だって、やっと真上だ。まだ半分しか過ぎていないなんて。
「ん、顔赤くない?もしかして恥ずかしいの?」
「まさか。暑いだけだから」
「ねえ、そろそろ認めちゃいなよ、俺のこと好きだって」
「な、何言って……!」
「違うの?」
「……アンタと私はね!仕事上ライバルなのよ!恋人役を演じるからって、馴れ馴れしくしないで!」
奏世の思わぬ発言に、自分でも吃驚するくらい酷いことを言ったと思った。いくら演技だからって、この自惚れ男に振り回されたら自分でも何が正しいのか分からなくなる。自分の行動も、自分の気持ちも。