「俺、晴れ男だから」
そう宣言した通り、本当に当日は晴れた。今は梅雨なのに何て男だ。
暖かい予報だったので、買ったばかりのサマーワンピースに薄手のカーディガンを肩にかける。履き慣れないミュールは足元をぐらつかせる。
奏世とデートだから、デートらしい格好をしてきたわけじゃない。相手が奏世であろうが、人生で初めてのデートに気の抜けた格好は何だか嫌だったから。
「おはよう」
待ち合わせ場所に着くと、先に来ていた奏世がふにゃりと笑う。
その笑顔に私はまた意地を張ってしまうことを、奏世は知っているのだろうか。
「さっさと行くよ」
「ねえ、年下で頼りないかもしれないけどさ。今日は男にリードさせてよ」
にこり、左手を差し出してくる。もしかしなくてもこれは、手を繋げと?
改札前でいつまでも立ち止まったままだと邪魔だからと理由をつけて、大人しく手を繋いだ私はどこまで馬鹿なんだろうか。
今日はきっと、1日中奏世の甘い演技に付き合わなくちゃいけない。果たして私はいつまで耐えられるだろう。
「あれ、牧丘くん。チケットは?」
「もう事前に買ってあるから。はい、かんなちゃんの分」
差し出された前売券を受け取ったが、
「お金!待って、今出すから。いくらだった?」
「んー0円?」
「ちょっと!駄目だよ、私払うから!」
「分かった、こうしよ。これから俺のこと下の名前で呼んで。それでチャラ」
「それなら払います」
「ごめんごめん。頼むよ、かんな」
不意打ちの呼び捨てにドキリ、心臓が高鳴る。
相手はふたつも年下なのに、ライバルなのに。ただでさえ呼び捨ては友達からすら呼ばれないから、何だか慣れないのに。
「……もしかして、ずっと気にしてた?」
「だって、名字にくん付けって年下扱いされてるみたいだし。恋人役やるんだから、この際呼んでくれたらなって」
「……分かった。奏世」
仕方なくそう呼ぶと、想像以上に嬉しそうにするから何だか気が狂う。
このままじゃ奏世に流される。飲まれる。
休日と言えど、梅雨期間だからかそこまで混んでいなかったので、少しの待ち時間でどのアトラクションも乗ることができた。待ち時間は奏世の話をひたすら聞く係。口を開いたらまたつっかかってしまいそうで、この場では流石にする気になれず口を閉じた。
「楽しい?」
「……うん」