勿論役者として演じようと思えば演じられるが、今までの私たちとはまるで逆だ。恋に落ちるどころか、私は奏世を冷たくあしらっているし、この前撮ったばかりのCMだって対立関係という設定だった。
奏世に優しく愛のある台詞をかけることがどうも引っかかる。相手が奏世でなく「アンリ」だと思えばいいだけなのだが、それでも演じるのは奏世だ。
奏世も同じことを思ったのだろう。ふと、とんでもないことを言い出した。
「かんなちゃん、デートしよう」
「え、な、何で牧丘くんと。別にデートなんて」
「かんなちゃんがそうだからだよ」
「……私?」
ドキリ、鼓動が変に速くなる。
「かんなちゃんが俺に素直になれるように、俺のこと好きになってもらえるように。今度の日曜日、デートしよう」
何だか少し気まずく思ったのは何故。
「このままじゃ、俺とかんなちゃんはアンリと灯になりきれないし」
「ご……」
ごめん、が素直に言えないのはきっと長い時間と関係のせいだ。
世界で一番負けたくないのは間違いなく奏世だ。私の初めてのライバルであり、生涯のライバルだ。奏世は私をライバルだと思っていなくても、私はそう思っている。
ずっと奏世を追い抜くために、演技に全力を傾注してきた。だから、奏世と恋人役なんて、どうすればいいのか分からない。
負けず嫌いの性格が、私を素直にさせてくれない。奏世と素直に向き合えない。
「……仕方ないから、デートしてあげる」
頑張ってやっと出た言葉は、強気に塗れたものだった。





あの後、そういえば連絡先を知らないと気付き、仕方なく奏世と番号とアドレスを交換した。性格上、連絡はまめに丁寧にするタイプなのに、奏世からの連絡にはあまり長い言葉で返せない。
それでも何とかデートの約束を付け、今週末に遊園地にデートすることになった。
なんてベタな、と思ったがそこは奏世に言いくるめられてしまった。お互い所属事務所は恋愛NGという決まりはなく、そのあたりは割と緩いからと、マスク着用も禁止された。しょうがないから伊達メガネで観念することにした。