事務所に到着し、地下の駐車場からエレベーターであがる。目的階に到着して、エレベーターの扉が開いたのだが。
そこには。
「えっな、なんでここに」
「かんなちゃん!?」
何故か大嫌いなあいつがいる!
ここは私の事務所であって、彼は他事務所。本来ならここにいるはずじゃない。どうして。
「え、え、社長?これはどういう」
「栞菜ちゃんも来たんだね。それじゃ、奏世くんも栞菜ちゃんも奥の第一会議室に入って待っていて」
「え!?」
最後の声は奏世だ。奏世がどうしてここにいるのか分からないが、反応からして奏世も詳しいことは知らされていないようだ。
嫌な予感しかしない。というか、既視感。
二度目とあって、冷静に予測は立った。
――奏世と共演だ。
「こんにちは」
暫くして会議室に入ってきたのは、何と大物監督だった。
この業界じゃ知らない人はいないほどで、バンバン世に名作を送り出す監督だ。話は聞いていたが、実際にお会いするのは実は初めて。
一気に場の空気は緊張に包まれる。奏世でさえ緊張しているのが伝わってきた。無意識に背筋がピンとなる。
「映画監督の大谷です。率直に言います。小鳥遊さんと牧丘さんに映画に出てほしいんです」
ごくり、飲み込む。
「作品は『光待つモーメント』、あのベストセラー作家の石川孝月さんの作品です。この作品を実写化しようと思った時、主演の二人はあなた方だな、と」
石川孝月さん、その名は勿論知っている。
仕事柄、小説や漫画を実写化というパターンはよくあることだから、小説は普段からよく読んでいる。『光待つモーメント』は読んだことはないものの、石川さんの他作品は幾つか読んだことがある。
「どうして私たちだと、思ってくれたのですか?」
「まずは、この作品を実力派俳優・女優に演じてもらいたかったんです。本の世界観を考えると、ブームや人気でキャスティングはしたくないなと。それから、二人の醸し出す雰囲気や登場人物との照らし合わせをして、二人を指名したいと」
事態に冷静に対応するものの、正直頭の中は混乱していた。
だって、奏世と共演というだけで物凄く気が張るのに。それに加え、大物監督から有名作品の主演を監督直々に指名された。
正直、私にとってあまりにも大きすぎる仕事だ。