最初は「アンタ、松木くんに色目使ったでしょ!」とクラスの女王様のような女の子から呼び出されたことだったと思う。
私、男の子には誰にも興味ないし。というより、恋愛に時間を割く暇はないの。私は仕事を選んだ代わりに青春を諦めたの。そもそも、松木くんって誰ですか?
心の中で反論の言葉を並べてみるが、それを口に出せば火に油だと分かっていたから敢えて何も言い返さなかった。
それが彼女にとって癪だったのか、そこからあまりクラスメイトが口をきいてくれなくなったのだ。芸能人だからって生意気だ、と。
仕事が絶不調なら、せめて友達との時間に救われたかった。
私は、車で迎えに来てくれていた古坂さんが「栞菜、何があったの」と問うてくれていなかったら、誰にも救われていなかったかもしれない。
どうして分かったんですか、と古坂さんに聞いたら、「だって栞菜、学校なのに気を張り詰めたような顔をしてたから」だそうだ。血の繋がらないただの他人と言えど、隣で一緒に仕事をしている古坂さんには何でもお見通しだと観念し、全てを吐き出してしまった。
「栞菜、ごめんね。思い出させちゃったね」
「え?」
「さっきから進んでない」
ブイヤベースを指差され、慌てて口を動かした。
でも、本当に今は大丈夫。
高校では友達が沢山いるし、お仕事もまた増えてきているし、それに。
「……牧丘奏世のおかげでもあるかも」
「え?奏世くん?」
「だって、彼がいなかったらあの時演技も諦めていたかもしれない」
幸いにも目標があったから、負けず嫌いの性格で乗り越えられたのかもしれない。
そう考えると、奏世にも救われているということになるのか。
でもやっぱり、本人にはこんな気持ちを素直に伝えることなんて出来ないし、冷たくあしらってしまう態度も改めることができない。また同じ電車になっても、きっといつも通り奏世の自惚れに毒づいてしまうだろう。