「それじゃあ、撮影入りまーす!」
各々に指示が飛び交う。しばらくして栞菜と奏世もセットに呼ばれる。
私が準備をしようと動き出した時、奏世が私を追い抜き颯爽とセットへ入っていった。
「可愛い」
この言葉をすれ違いざまに落として。
「え」
セットに入った奏世はもう役者モードだった。
冗談かお世辞だったと思うけど、勝手にそんな言葉を残して自分はさっさと仕事モードになるなんて、狡い人。
ただでさえ奏世との共演に気を張り詰めているのに。ここだけの話、気を負いすぎて今朝はまともにご飯が食べれなかったくらいなのに。
でもこんなことで動揺してはダメ。頑張らなくちゃ。頑張れ、小鳥遊栞菜。
今、目の前にいる人はずっと追い続けたライバルなんだから。
▽
「――私はダージリン」
「――僕はジャスミン」
「――あなたは」
「――どっち?」
撮影から半月。ついにCMが放送され始めた。
バックライトを浴び、シルエットが浮かび上がる私。順光を浴びながら商品を手に持ちモデルウォークで数歩歩く。次に氷のたっぷり入ったグラスにダージリン紅茶が爽やかに注がれる接写。
そして、私を照らすライトとカメラが右にパンし、同じくバックライトを浴びた奏世を映し出す。その後は私と同様の順序にCMは進む。
最後、真ん中からきっちり赤と青に分かれている背景の前で、私と奏世が商品に口付け、先程の台詞でCMは終わる。
「わああっ、お姉ちゃんと奏世くんカッコイイ!」
「そう?」
「うん、モデルウォークもばっちり決まってたよ」
「円花に言われると安心」
個人的にもこのCMはお気に入りだった。奏世を前に上手く出来るか不安なところが正直あったが、結果的に良い出来栄えだと思う。
奏世の演技は、やっぱりすごかった。高校生になったばかりとは思えない程のクールさを醸し出しながらのウォーキングは、格好良いという言葉じゃ勿体ない。その色気を含む眼差しに思わず鳥肌が立ったくらいだ。
ちゃんと絡みのある共演は初めてだったが、率直な感想は「楽しい」。
確かに奏世相手では緊張もしたし気負いもした。自分を自然と追い込もうとしていたし、その結果食欲さえ落ちた。
けれど、私がライバルと決めた人だ。仕事に対する熱や取り組み方、想い、姿勢。その全てが気持ちよかった。一緒に演じたい、と思わせるものだった。