愛想笑いは振りまかず、適当にリビングに案内し、淡々と人数分のお茶を用意する。
……それにしても。同じサークルとはいえ、一片の良心すら感じられない兄とよく付き合う気になれるよね。それとも、兄をこんな風にしか捉えられないのはあたしだけ?いやいや、そんなことは無い筈。
お盆に乗せてお茶を運ぶと、付けっぱなしだったテレビの番組が先程の流行特集のチャンネルに戻っていた。男たちはそれを見ながら、俺はこういうのが好みだとか、これはないだとか、騒がしく笑っていた。
ほら見ろ、見た目にあれこれ言うじゃないか。
「お茶です、どうぞ」
「あっどうもー。……いやあ妹サン、あいつと似てますね!」
「は?」
「顔のパーツがそっくりだよな」
それはあたしにとって一番最悪なことだ。むしろ悪口に値する。あんな兄と似てたまるか!
これだけは譲れないし認められない!
「こんな妹と似てたまるかよ!」
と、全く同じセリフを吐きながら自室から兄が出てきた。何とか支度は終わったらしく、それでも怠そうに財布をポケットに突っ込んでいた。
「……こっちの台詞なんですけど。支度はようやく終わったみたいですね。ご苦労様!」
今度こそ嫌味を本人に投げつけてやった。
兄はそれでも聞こえないふりなのかただ面倒くさいのか、何も反応せずやっぱり怠そうに玄関に向かった。
ああ、だから兄は嫌だ。
男たちはまた、どっと笑った。


「――――カット!」
途端、場を纏う空気が温度を変えた。
監督の声のトーンや表情から、どうやら納得のいくものだったと読める。それでも自分の目で客観的に観て、自分がイエスを出せなければ、駄目なのだ。
「妹」から「役者」に切り替え、兄役の役者さんとサークル仲間役の役者さんたちと共に、後方に用意されたモニターへ確認しに行く。
兄役の役者さんと妹役のあたしがモニターの最前列へ。何台ものカメラでいくつもの視点から捉えた映像。一つ一つ、動作や言葉を確かめる。
「……うん、いいんじゃない?」
上がった声に私もしっかりと頷く。
私はイエスを感じたこの瞬間、ようやく自分の張り詰めた空気を解せるのだ。
「本シーンをもちまして、小鳥遊栞菜さんオールアップです!」
監督、役者、それからその他大勢のスタッフから沸き起こる拍手に大きく頭を下げ、何処かから現れた可愛らしい花束を受け取る。バラとかすみ草で束ねられた、綺麗な花束だ。春らしい陽気が風と共に窓から舞い込み、匂いが私を包み込む。