撮影当日。
赤のダージリンということで、真っ赤なジャケットに真っ赤なプリーツスカート、それから真っ赤なミニのシルクハットという、本当に全身真っ赤の衣装だ。
しかし、ただ真っ赤なだけでなく、葉をイメージした模様が胸元のリボンとプリーツスカートにあしらわれている。
この様子だと、奏世は恐らく全身青だろう。ジャスミンなら、模様は花だろうか。
「はい、ヘアセットも終わったよ」
「わああ、可愛い!」
ヘアメイクさんに髪をふわふわに巻いてもらう。地毛がストレートなので、普段と違う髪に思わずテンションが高まる。
そういえば、初CM撮影の時もこうやって衣装や髪型に胸躍らせたなあ。あの時は豪華なドレスを着せてもらったから、尚更目が輝いた。
このお仕事の魅力は、色んな人になれることだ。それは中身だけでなく見た目にも言えることで、こうやって普段着ないような衣装を着せてもらったり髪型をめいいっぱい弄ってもらえる。
鏡を覗き込む。メイクさんにお化粧を淡くしてもらったおかげで、いつもの自分より幾分かキラキラして見える。けれど、瞳には若干の不安の色。
ライバルとはいえ、相手は年齢も芸歴も年下よ。努力だってしてきた。演技に対する情熱だって誰にも負けないつもり。
頑張れ、自分。頑張れ、小鳥遊栞菜。
敢えて強気で挑むことにした私は、しっかりとした足取りで撮影現場に入った。
「小鳥遊栞菜です。本日はよろしくお願いします!」
深々と頭を下げる。が、今日は厚底ブーツなので重心のバランスが取りにくい。あまり頭を下げすぎるとふらつきそうで、ぐっと足に力を入れた。
「牧丘さん入りまーす!」
スタッフの声と共に、奏世がスタジオ入りした。
「牧丘奏世です、よろしくお願いします!」
予想通り、奏世は全身青の衣装だった。青いジャケットに、青いズボン。奏世はネクタイとズボンがジャスミンを連想させる花柄であしらわれている。
奏世はどんな格好も様になるのね、と遠目で見ていたら、目線に気が付いたのか奏世がこっちにやってきた。
「おはよう。今日はよろしくお願いします、小鳥遊さん」
「おはよう。こちらこそよろしくね、牧丘くん」
二人はCMの構図では対立関係だ。だからなのか、それとも仕事だからか、他人行儀で挨拶してきたので私も素直に応えた。