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事務所に着けば、古坂さんが何やら資料を沢山持って待っていた。
「栞菜!CMのお仕事入ったよ!」
「本当ですか!何のCMですか?」
「紅茶飲料のCMみたいよ。その打ち合わせが入ったから、今から行くよ」
久しぶりのCM出演依頼に思わず顔が緩む。紅茶飲料かあ、紅茶大好きだから嬉しいな。きっと最後に御礼としてまとめてくれるよね、なんて楽観的に考えながら古坂さんの車で移動する。
CMはいわばその商品を売り出すための一つの宣伝なわけで、それが自分の苦手な商品だったらうまく宣伝は出来ない。だから、CMに関しては自分が納得できるものにしか出ないようにしている。今回は、私が紅茶を好きなことを古坂さんは知っているから、古坂さんが判断して依頼を受けてくれたのだろう。
「さて、着いたよ」
テレビ局の会議室へ向かう。制作サイドとの打ち合わせだ。
エレベーターであがり、指定された会議室の扉の前に着く。
ノックする直前、古坂さんは突然口を開いた。
「言い忘れてたけど、今回のCMは共演者がいるから」
「え?共演者?」
私が聞き返した時にはドアをノックしていた。
まさか古坂さんがそんな大事なことを会議室に入るまで忘れていたなんてことはない。意図的にだ。
嫌な予感しかしない。だって、思い当たるのはたった一人。
「……やっぱり!」
「え?小鳥遊栞菜?」


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「かんなちゃん、お疲れ」
「本当にね」
奏世も共演者が私だと知らされていなかったらしい。お互い目をこれでもかってくらいに真ん丸くし、動揺した。
奏世と共演なんて、3年前の映画以来だ。二人だけでは初めてだ。
制作サイドからの説明によると、今まで発売されていたダージリンティーとジャスミンティーが美味しく生まれ変わって来月から発売されるらしい。ふたつのフレーバーを対立させるという構図で売り出すとのことだ。私が赤のダージリン、奏世が青のジャスミンだ。
「一緒に帰るのは初めてだよね、やっぱり俺と帰ってくれるなんて俺のこと好きなんじゃない?」
「……ん、何か言った?」
あ、あれ。そういえばあまりに吃驚して、奏世に「とりあえず帰りながら話そう」って言われて流されるままここまで来てしまったんだった。でも今はそれどころじゃない。
奏世と仕事。しかも二人だけで。それだけで私はもう心臓をぎゅっと掴まれたような感覚だ。
あの映画から3年が経つけれど、私は成長できているのだろうか。少しでも奏世との距離を縮められているのだろうか。奏世は、いつか私を認めてくれるだろうか。
「かんなちゃん?」
「え、ああごめんね。アンタといたら意識が思わず逃げちゃった」
「えー奏世クン悲しい」
とにかく、奏世との仕事。
今はそれだけを考えてこなしていかなくちゃ。