「かんなちゃんは今日レッスン?」
「うん、牧丘くんも?」
「そういえば今日は何もないな」
「は!?えっじゃあ何でここまで来たの!」
「電車乗ろうとしたらかんなちゃんが見えたからかな」
思わず唖然。この男、インタビューではかっこつけてあんなこと言ってたけど、随分破天荒じゃない!
色々通り越して馬鹿だと思う。貴重なお休みを、私なんかに構わなくてもいいのに。
もう。本当に、
「馬鹿だね」
「かもね」
奏世はにっこり笑い、私の事務所前までついてきた後また同じ道をゆっくり戻っていった。


  ▽


「……」
「え、まさか疑ってる?今日は本当に事務所に呼び出されてるんだって」
先日の件もあり、今日も同じ電車に乗ってきた奏世を見るなり思わず疑いの念を向けてしまう。
今日は本当にオフではないらしい。私も今日はレッスンではなく事務所に呼び出されている。いつも通り、空いている席に二人並んで座る。
「そうそう!今日、身体測定だったんだけどさ。身長171センチだったんだよ」
「えっ5センチも伸びたの!公式プロフィール、更新しなくちゃね」
「……ああ、マネージャーに伝えておくか」
自慢げに背筋を伸ばす奏世が少し不思議そうな顔をしたのを見て、思わず焦る。
やだ、こんなこと言ったら奏世の情報チェックしてるのバレちゃう。具体的な数値、言わなきゃ良かったかも。
私の身長はもうこれ以上伸びそうにない。ということは、奏世とは9センチ差。
数年前までは私の方がずっと上だったんだけどな、いつの間に私を追い越したんだろう。
ますます奏世が大人に見える。そうだ、子役時代から奏世は年相応に見えなかった。
顔はどちらかというと幼さが見えるのだが、言動や眼差し、思考が年に伴わっていない。言わずもがな、演技力も。
「じゃ、かんなちゃんまたね!」
「いや、『また』は無くていい」
ニコニコ手を降ってくる奏世を一蹴し、さっさと事務所に向かう。
が、この「また」がこんなにも早く訪れるとは奏世さえ思わなかっただろう。