「ママ!ママ、ゆーちゃんからはなれないで!」
私のママ!待って、行かないで!
傍からいなくなっちゃうのは悲しいよ、寂しいよ。
だからママ、ゆーちゃんから離れちゃだめ。
だめ、だめ、だめ。
「ゆーちゃん、こんなママを許して」
「やだやだ、ママといっしょにいる!まって!」
手を伸ばし、駆けても駆けてもその背中は遠のく。
どうして追いつかない?どうして離れる?
ママは、私の傍にいるものでしょ?
どうしてママは振り向いてくれないの?
ママ、ママ、ママ――……。
「――カット!」
気が付けばカットがかかり、加瀬さんに背中をさすられていた。
どうやら役に入りすぎて号泣していたみたいだった。嗚咽が止まらない私を、加瀬さんは静かに何度も背中をさすってくれた。
「かんなちゃん、今のは私の娘だったね」
オッケー出たよ。
そう言って微笑んでくれた加瀬さんは、私が今でも尊敬してやまない人だ。


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「今日の特集は子役!世間では子役ブームに火が付いていますが、その子役ブームの火付け役ともいわれる小鳥遊栞菜ちゃんに密着しました!」
ゴールデンタイムのテレビから、私の特集コーナーが流れる。
母は私の出る番組を必ず録画するのに、必ずリアルタイムでも視聴する。撮影現場にも基本的にはついてきているから実際に目の前で見ているにも関わらず、だ。
デビューから数年。バラエティ番組の露出は少ないが、特集を組まれるのは度々。「子役と言えば小鳥遊栞菜」とまで言われたし、人気子役だの天才子役だのと形容されるのが当たり前の生活になっていた。
ドラマデビューを機に演技に専念してきた私は、負けず嫌いの性格が表れ始めた。ただ、この頃の負けず嫌いのベクトルは他人ではなく自分に向いていた。それは同じ土俵に立つような子役がまだあまりいなかったこともある。
調子に乗っている、と言われればそれまでかもしれないが、自分で自分をそこまで評価するのはそれだけの努力を注いできたからだ。小学校では友達はいるものの、学校が終わればレッスンに直行の毎日。休日は撮影で丸一日お休みの日はあまりない。
周りから評価され、期待される。そうすると幼いながらに演技に対して一生懸命取り組もうと奮起する。だから、お休みがなくても特に何も思わなかった。ただがむしゃらに、突き進んでいった。