「女ってめんどくせえ」
ソファに身を委ね、リモコンを放り投げる兄に思わず怪訝な顔を浮かべてしまう。土曜日の午前、暖かな一室。
「は?どこが?」
「いちいち流行りに乗って無駄な努力しやがって」
目の前のテレビでは今、今春の流行特集を取り扱っている。綺麗な女性アナウンサーが都内の繁華街で様々なものを身に付け試している。
その中には勿論、あたしが早速流行に乗って身に付けているものもある。
「無駄な努力って何よ」
「こんな苦労してまでオシャレするなら、わざわざやんなきゃいいだろ。みんなして同じモン身に付けやがって」
「馬鹿じゃないの?お洒落しないでずぼらでいたら、男は見た目だけでグズグズ文句言うくせに」
「何だと?」
「男もめんどくさ」
思わず喧嘩腰に反論し、長い溜息と共にチャンネルを変えた。
兄は昔から、少し傲慢なくらいケチをつけたがる人だ。それに加え、頑固。そんな兄の元で育ってしまえば、何でも喧嘩腰に反論してしまうのも仕方ない。おかげで気が強い女として異性からはめっきりモテない。
ついでに言えば、当然ながら兄もモテない。そもそも兄の口から女の子の名前が出たこともない。当たり前だ、こんな兄に彼女が出来たらまず彼女の正気を伺ってしまう。
休日のブランチタイムはぱっとする番組があまりなかった。しかしあの番組に戻すよりは、と旅行番組をぼうっと眺める。
暇だ。こんな兄と一緒にテレビを見るしかないくらいには、暇だ。
「……あ、誰か来たみたい」
ふと道路に面した窓に目をやると、男の人が数人玄関に向かうのが見えた。と同時に、インターホンが鳴る。
「げっ、もうこんな時間かよ。今日サークル仲間とバーベキューなんだよ」
「は?だったら支度してからテレビ見なよ、馬鹿?」
「支度してくるから家にあげといて」
兄がとことんクズなのは分かっていても、毎回その態度に苛々してしまう。根っから叩き直してやりたいところだが、無意味に終わるのが目に見えているのでもう諦めている。
兄と付き合う人でさえ関わりたくないのが本音だが、訪問客を放っておくことも出来ず、半ばうんざりしながら玄関を開けた。
「はい」
「ちわーっす!……あれ、妹サンっすか?」
「はい、兄はクズっぷりを発揮していて今になって支度を始めた馬鹿なのでどうぞ上がって待っていてください」
兄への嫌味を言葉と声のトーンに存分に含ませると、男たちはどっと笑った。