◆◇◆◇

 四時限目の授業が終わって昼休みに突入すると、教室は徐々にざわめいてくる。
 持参した弁当や購買で買ったパンなどを持ち寄り、仲の良い者同士で集まってめいめいに食べる。

 その中で、紫織は親友の山辺涼香(やまのべりょうか)とふたりで弁当を広げていた。
 休み時間に入るのと同時に、涼香が椅子と弁当を持って紫織の席まで来るのが日課となっているのだ。

「あのさあ紫織、ひとつ訊いてもいい?」

「ん」

 涼香に訊ねられ、紫織は卵焼きを頬張りながら短く答える。

「あんたと高沢って、出来てんの?」

 突拍子もない質問が飛んできた。紫織は思いきりむせ、危うく卵焼きを戻しそうになってしまった。

「げほっ、ごほっ……。なっ、何でそんなこと……」

 狼狽している紫織に対し、涼香は淡々としていた。

「いや、紫織って男子と話すことが滅多にないじゃん。それなのに、高沢とは仲良くしているからさあ。幼なじみだってのは前にも聞いていたけど、もしかしたら、って思って」

「――だからって、なんでそんな発想に至るわけ?」

 お茶で卵焼きを流し込んだあと、紫織は逆に訊き返した。

「発想もなにも、いくら幼なじみでも高校生にもなれば関係が煩わしくなって、どちらからともなく離れるもんじゃないかと思ったからさ。――まあ、私はそうゆうのがいないから、実際はどんなもんなのか分かんないけど」

 涼香の言い分は、紫織も妙に納得した。

 確かに、朋也と紫織のように仲が良いのは、幼なじみといえども特殊なのかもしれない。
 子供っぽい朋也に疲れを感じても、煩わしいとは決して思わない。
 それどころか、一緒にいるのは安心出来る。

「朋也のことは嫌いじゃないよ」

 紫織は箸を止めて言った。

「でも、これだけははっきり言うけど、私は朋也に恋愛感情を抱いた事はないから。――だって……」

 言いかけて、紫織はそのまま口を噤んだ。

 頭の中に浮かぶのは、穏やかな笑みを浮かべる十歳も離れた幼なじみの顔。
 紫織や朋也にいつも優しいが、心の中はどんなに手を伸ばしても届かない場所にある。

 遠い日に交わした約束も、彼にしてみたら幼い子供の戯れ言程度にしか考えていなかったであろう。
 その当時の宏樹と同じ位の年齢になった今は、それが嫌と思えるほど理解出来る。

 考えるうちに、深い哀しみが押し寄せてきた。