それから通常どおりの授業がはじまった。勉強は得意ではないけれど、じいちゃんに迷惑をかけたくないので、赤点だけは取らないようにしようと決めている。

黒板に書かれた文字をノートに写して、休み時間になれば机に顔を伏せる。これが俺のルーティンだったはずなのに、茅森は俺に声をかけてくることをやめなかった。

「ねえねえ、悠生くん。今日のお昼はなにを食べるの?」

俺が音楽を聴いて寝てる時だけではなく、移動教室の時もトイレに向かう廊下でも、彼女は隙あらば名前を呼んでくる。

誰とでも分け隔てなく接する人だということは、なんとなく雰囲気から感じとれる。

けれど、昨日あんなことがあったとはいえ、仲良くなった覚えはないし、これからだって親しくするつもりはない。

茅森はただでさえ目立つので、寄ってくるだけで周りに注目される。騒がしい学校生活を送るつもりはないし、そういう考えを変えたいとも思っていないので、関わりを持ちたくなかった。

無視し続けていたらかまうのをやめてくれるだろうと考えていた俺の心情とは反対に、次の日もまた次の日も茅森は俺に話しかけてきた。


「おはよう!」と元気な挨拶からはじまり、「休みの日はなにをしてるの?」「何時くらいにいつも寝てる?」「なにをしてる時が一番楽しい?」と、誰にも聞かれたことのない質問をたくさんしてきた。

それはまるで今まで話しかけてこなかった分を取り戻すかのように。

小動物のようにちょこちょこと付いてきては、「悠生くん、悠生くん」と名前を連呼されるので、大人しく教室にもいられない。

俺の学校での行動範囲なんて限られているっていうのに、茅森から逃れるためにここ数日は校舎を歩き回っていた。